第10章 【第7章】気が付けば夏休み
ついこの間から夏休みが始まった。しかしチユには全く実感がない。
なんせ、始まる直前までずっと曲を作り続けていたのだ。
夏はイベントが多いせいなのか、なにかとインスピレーションが沸(わ)いてくる。
そのため、チユは夏休みが始まっても部室に篭(こ)もり続けた。
仮眠から目を覚ましカレンダーを見ると、もう夏の長期休暇が始まっていた、というわけである。
「チユ、部屋、ずっといる。体、悪い!」
『…そうだね。流石に閉じこもるのは、まずかったかなあ』
一応、学園長と園等先生には生存確認をされているため、学校側には話が通っている。
夏季休暇中は実家に帰省する学生が多いが、宿舎に残ることができない訳ではない。
何よりチユの城である部室はある意味"特別"な部屋なので問題は無い。
しかし長い間日光を浴びていないチユの肌は真っ白である。そしてろくに食べず運動もしていないせいか幾分細く見える。
『ちょっとお外行こうか。お散歩しに行こう』
「散歩!ルー、する!」
『シャワー浴びて着替えるから、ちょっと待ってね』
部屋に付属されているシャワールームでさっぱりした後、動きやすい私服に着替える。
袖無しパーカーにショートパンツ、裸足という露出度の高い服装だが、生徒がいないという事実と何日間かの疲れで脳が麻痺した結果である。
念の為、羽織るための上着を腰にまく。
靴を履かないのは、足の形が異形であるためだ。普通の靴や靴下はチユにはとても窮屈なのだ。
チユは改めて自分の足を見下ろしてみる。
膝上から下は腕と同じように朱色に変色している。普通なら5本指に別れている指は3本で、鳥の足のように深く裂けている。
そして踵からも1本、短い鉤爪が生えている。
『(特別なブーツでも作ってもらおうかな…)』
チユは普段ローファーで生活しており、その窮屈な革靴に爪を押し込めて学校に通っている。
靴のサイズが合っていないのだから、当然足は痛むのである。
今日はいつも窮屈な思いをしている足を労(いた)わろうと、裸足で伸び伸びと動こうと考えるチユであった。