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【YOI】僕達のif【男主&勇利】

第2章 迷い


故障前と変わらぬどころかそれ以上の存在感を誇る『氷上の風雅人』に、ヴィクトル・ニキフォロフをコーチに迎えた事で大躍進を遂げた勝生勇利同様、彼も世界の舞台へ復活かと白田をはじめ周囲が興奮したのも束の間、
「これでもう、競技者として何も思い残す事はありません」
いつもの取り澄ました顔はどこへやら、憎らしいほどスッキリとした表情で現役引退を宣言したのである。

「上林くんじゃないか。宮永くんとの練習に来てたのか」
聞き覚えのある声に純が首を動かすと、ジュニアの終わりからシニアの始め頃まで純が師事していたコーチが近付いてきた。
「ご無沙汰しております」
「元気そうで何よりだよ。昨シーズンは、振付師として大活躍だったな」
「恐れ入ります」
「…あの時は、すげなくしてしまって悪かったね。だけど、君の本気がどれ程のものか判らなかったから、安易に返事ができなかったんだよ」
少しだけ気まずそうに言葉を続けたそのコーチに、純は当時を思い出す。
(生憎、将来有望な若手の面倒で手一杯なんだ。もはや君の入る余地なんかないよ)
膝の大怪我で一時期全てを投げ出していた純が、競技復帰を決めたものの、待っていたのは自分の不義理に対するかつてのコーチ達の冷たい言葉だった。
それは、自身が招いた結果だと判っていたし、その後出会った藤枝によって、完全燃焼に近い形で現役生活を追えられたので、別段彼らに対するわだかまりは持っていない。
「いいえ。所詮僕は、貴方のお眼鏡に適うスケーターやなかっただけですわ」
だから、純は口元に笑みを浮かべながら至極平静な声で返したのだが、過去に純を袖にした後ろめたさもあってか、そのコーチはそんな純の言葉と表情がまるで「ホンマ、ええ仕事してはりますな」と京都独自の言い回しでこちらを皮肉っているようにも見えて、内心で冷や汗をかいていた。

「純、お待たせ。今日はよろしくね」
久しぶりに会う勇利に笑いかけられ、純は何処かホッとしたように頷く。
遠巻きにこちらを眺めている複数の視線に気付かないふりをしながら、純は勇利と共にショーに向けた自分達2人のペアプログラムについての説明を宮永から受けていた。
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