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【YOI】僕達のif【男主&勇利】

第2章 迷い


最初から気に食わない奴だと思っていた。
4歳から始めたフィギュアで西日本ではほぼ無敵と言われていた白田は、ジュニアに上がる頃京都から現れた選手の存在に、自分の自信とプライドを粉々に打ち砕かれた。
自分がどんなに頑張ってもいとも容易く越えていくその選手を正直腹立たしく思う反面、彼のスケートの美しさや表現力に惹かれてしまう事を否定できなかった。
勝生勇利には及ばないかも知れないが、彼なら世界を目指す事も決して不可能じゃない。
しかしシニアに上がってから数年後、彼は膝に致命傷を負った。
周囲の誰もが復帰は絶望的だと噂していた中、白田だけは執拗に競技復帰を促していた。
(あの高嶺さんかて、酷い怪我を乗り越えて世界の頂点にも立ったやんか!ここで辞めたら勿体ないで!)
だが、どんなに白田が声をかけても彼は首を縦に振る事はなかった。
当時大学4回生だった彼は、はじめからスケートは学生までと決めており、「たまたまそれが早うなっただけやから」と、寂しそうに笑みを零すだけだった。
一時は何処かに雲隠れするほどスケートから遠ざかってしまった彼の様子に、あれだけの才能を持っておきながら諦めてしまうなんてというもどかしさを抱えながらも、本人がそう決めたのなら仕方がないと割り切ろうともしていた。
ところが。
白田がそのシーズンの全日本選手権で競技を引退、大学卒業後恩師のアシスタントコーチとして新たな道を歩み始めた矢先、彼が大学院へ進学し、スケートを再開したという知らせを聞いた。
「あれだけ何を言うても聞かんかった奴が今更どの面下げて、やな」
「現に、ウチのセンセも含めてこれまで世話になったコーチ達にも門前払い食らった挙げ句、場末のヒゲコーチのトコ行ったらしいで。ええ気味や」
そうせせら笑う仲間達に僅かに引っかかるものを覚えつつ、白田は自分の言う通りにさっさと復帰していれば、今頃そんな苦労をしないで済んだのだとも考えていた。
だが、実際に試合会場で数シーズンぶりに目にした彼は、アスリートとして遜色のない演技で他を圧倒していた。
当たり前のように近畿、西日本大会を通過し全日本選手権に出場した彼は、完璧とはいかなかったがその滑りで会場の観客全てを魅了したのだ。
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