第18章 信頼の絆
南東の山。
下弦の参は、何故山にいるのか。山に人間はいないだろう。
夜平の案内の元、全力で走る。
鼓動が煩い。全身が心臓になったみたいだ。
浮いているのかと錯覚するくらい、足が地を蹴る感触がない。
「止まれ。この先だ。」
夜平に言われて足を止める。
「…炭治郎は?」
「こちらへ向かっている。間もなく、着く。」
この先に奴が…、病葉がいる。
手が震える。呼吸が荒い。
落ち着け、落ち着け…必死に言い聞かせていると、「…勇姫!」と炭治郎が息を切らして現れた。
炭治郎の顔を見ると、少し緊張が落ち着いた。
「炭治郎、来てくれてありがとう。よろしく。」
「ああ、行こう。」
二人は山に入った。
病葉は山奥に一体でいた。
人間を襲っている訳ではないようだ。キョロキョロと草を掻き分けて何かを探している。
救護対象がいないのは好都合だ。
しかし、ここで、二人にとっての誤算が起きた。
病葉をその目に捉えた瞬間、勇姫が急変したのだ。
視界が揺れ、過呼吸を起こし、「ぐっ…」とうめき声をあげて膝を付く勇姫。がたがたと全身を震わせる。
炭治郎がはっとした瞬間、「誰だっ!」と病葉に気付かれた。炭治郎はとっさに勇姫を抱えてその場を離れた。
敵の不意をついた奇襲は、失敗した。
木の影に隠れた炭治郎。
病葉の匂いが近付いてくる。すぐに見つかるだろう。
早く状況を立て直さなければ…焦りが募る。
勇姫は炭治郎の腕の中で呼吸も荒く震えている。とても戦闘出来る状態ではない。
どうする…どうする…
炭治郎は再び勇姫を抱えて病葉から距離をとる。
何故この状況を想定できなかったのか。勇姫はいくら強くてもまだ子どもだ。仇を前に激しく動揺してしまうことは、容易に予想できたはずだ。
…とにかく、俺が守らなければ。
炭治郎は勇姫をぎゅっと抱きしめた。かつて自分の家族を抱きしめたように、強く優しく。安心させるように。
炭治郎は空を見上げた。そして、これだ、と思った。「勇姫、空を見てごらん。」
勇姫は言われた通り空を見る。
――そこには二人が出会った日と同じくらいの、満天の星空が広がっていた。
「勇姫には星が付いてる。俺も付いてる。大丈夫だよ。」
二人の目に、星が映っていた。