第15章 喧嘩
「さて、どうしたものか…」
勇姫は炭治郎からの手紙を前に考え込んでいた。
正直な所、炭治郎に対してもうさほど怒りはない。時間が解決するだろう作戦が功を奏し、混乱も収まり落ち着いている。
手紙からも彼の反省は読み取れた。伏してお願いしてるし。
会いに行こうかな、とも思う。仲直りができるものならしたい。
しかし、何故か最近やたらと指令が来る。雑魚鬼だったり足跡調査だったりするので危険はさほど無いのだが、とにかく多い。
炭治郎のことを変に考えなくてすむという点においてこの仕事量はありがたかったが、隙間を見つけて蝶屋敷に出向くのは難しいのが現状だ。
でも、炭治郎は一日千秋の想いで返事を待っているだろう。
無視は可哀想だな。炭治郎、泣いちゃうかも。
勇姫は筆を取り、返事を書いた。
『竈門 炭治郎 様
お手紙を賜り、感謝致します。
体調はいかがでしょうか。くれぐれもご自愛くださいませ。
さて、蝶屋敷への訪問に関してですが、大変心苦しい限りではございますが、現在多忙な状況の為、致しかねます。
つきましては、差し支えがなければ、こちらへお越しいただけないかと存じます。
私は今、親戚の家に滞在しております。場所は貴殿の鎹鴉がご存じです。お時間の許す時にお立ち寄り頂けましたら幸いでございます。
尚、勝手ではございますが、先述の通り多忙にしております故、留守の場合はご容赦くださいませ。
巽 勇姫 』
そっと筆を置く勇姫。
炭治郎はここへ来るだろうか。
蝶屋敷からここまで、それなりに距離はある。勇姫が走ればすぐだが、全快していない炭治郎には辛い距離だ。
それに、彼は今、恐らく何らかの鍛錬などもしている最中だろう。
その上、空振りになる可能性もある。
あまりにも分が悪い。それらを押してでも、ここへ来るだろうか。
もう怒ってはいないが、勇姫は少し意地悪をしたくなって、そんな手紙を書いた。
勇姫は夜平を呼び「炭治郎の所へお願い」と、その足に手紙を巻きつけた。
手紙を出したのは、朝。
すぐに届いたのだろう。
炭治郎はその日の夕方に、鴉を連れて叔父の屋敷に現れたのだった。
あまりの訪問の早さに、いろんな複雑な思いは吹き飛んで、勇姫は笑ってしまった。