第15章 喧嘩
頭を冷やした炭治郎は、それはそれは猛烈に反省していた。
その落ち込み具合は、初めは腹を立てていた善逸も、なんだか気の毒に思い始める程だった。
「本当にごめん、善逸。俺、周りが何も見えなくなってた。」
素直に謝る炭治郎。これが炭治郎の良いところだよなぁと善逸は思う。
ただ、直情的であるが故に、全てが悪い方向に行くと、先程のような悲劇が起きる。どこまでも不器用な男だ。
「別に、いいよ。
でも、俺じゃなくて勇姫ちゃんに謝れよな。あの子こそ、何にも悪くないんだぞ。」
「…ああ、俺の完全なる嫉妬、だもんな。」
しっかりと自分の非を認めて反省しつつ、「男がいる寝台に座るのは良くないがな」と呟く炭治郎。そこはどうしても譲れない部分のようだ。頭の硬さは変わらない。
「今度、ちゃんと謝るよ。」
と言ったが、勇姫の蝶屋敷訪問はその日以来ぴたりと止まった。そしてその「今度」が来ないままに一週間が過ぎた。
機能回復訓練が始まり、炭治郎は何かと忙しく過ごしていたのだが、訓練時以外では心ここにあらずという感じになることもしばしばあった。
――…相当怒ってるのかな。
全く音沙汰のない状況に、炭治郎は焦った。
しかし、向こうから来てくれないと、炭治郎側からは何も出来ない。勇姫がどこで何をしているのかも、何一つわからないのだ。
あんなに近くに居たのに、今はこんなに遠い。勇姫が近づいてきてくれてたのだと気付いた。その状況に甘えていたと、痛い程に思い知らされた。
危険な目にあってるかもしれない
怪我をしているかもしれない
泣いている…かもしれない――…
屋根の上での瞑想中も、そんな考えばかりが浮かんできてしまい、なかなか集中出来ない。
ふぅ…と本日何度目かの溜め息をつき、瞑想を解く。
左足に巻かれた、赤い紐を見つめる。
あの日、屋根の上で嬉しそうに笑っていた勇姫を思い出す。「炭治郎を守ってください」と勇姫は祈った。
炭治郎はそっと紐に手をあてて「勇姫を守ってください…」と祈りをこめた。
今はこの細い糸だけが、自分と勇姫を繋ぐ唯一の希望のような気がした。