第16章 悪意は伝染する
2人の視線は一瞬交わったが、エルヴィンはものともしない態度でリヴァイの側を通り過ぎようとする。
「無視すんじゃねえよ」
面倒そうにリヴァイに向き合いエルヴィンは強い口調で話し始める。
「なんだ、こちらには用はないぞ」
「明日は俺も当然いるよな」
「なぜ、そう思う?そうさせるはずがないだろう」
「俺はあの場にいた男達を殴ったぞ」
「だからなんだ。それは目を瞑ってやるんだ。問題ない」
「ふざけんな、見逃す必要ねえだろが。」
「…リヴァイ、いい加減にしろ。」
「エルヴィン、お前こそだ。俺は明日も同席する。その上で処分しろ、ケジメつかねえだろうが」
「……そんなに処分されたいのか?」
「そう言ってる」
静かな声量だがお互い譲らず睨み合う。
たまたま通り過ぎようとした者は異様な雰囲気にそそくさと立ち去る。しびれを切らしたのは以外にもエルヴィンだった。
「そこまで言うならば勝手にするといい」
「そのつもりだ」
リヴァイは組んでいた腕をはずし、エルヴィンに背を向け去っていった。
こうしてそれぞれの夜は更けていった。
朝の光がカーテン越しにティアナに届き、いつもよりも早めに目を覚ました。
ふっくらしたマットレスに昨日からの一連を思い出し、部屋を見渡すと二ファもハンジもナナバも夢の中で、テーブルには空のボトルが数本、グラスも並んでいた。
「頭、いたい…」
昨夜は飲めない酒を飲み…飲んで。記憶がそこで終わって、頭を抑えて痛みに耐えていると「おはよう、ティアナ」
「あ、おはよう、ございます。ナナバさん」
「昨日はすぐ眠っちゃったけど、二日酔いしてない?」
「頭が、痛いです…」
「ハハ、立派な二日酔いだね」
次に二ファが、最後にハンジが起きたが朝からハイテンションなハンジに頭痛が増すティアナだった。
食堂で朝食も一緒に摂って朝礼の時間になるとティアナは不安になってきた。
今日、またトリシャ達に会う。[人の悪意はタチが悪い]ハンジの言葉が痛む頭に響く。
ポンッと肩に誰かの手が置かれ振り向くとニカッと笑っているハンジが「もう大丈夫、行こう」と背中を優しく押す。
膨れ上がる不安を押し殺してエルヴィンの執務室へハンジと共に悪意の元へと向かった。