第16章 悪意は伝染する
噂が拡散し始めてから危機感は持っていたティアナだが、2通の手紙でガードがゆるんでしまっていた。
「なぁ、いいだろ。どうせエルヴィン分隊長達にも良い思いさせてんだろ俺達もいいじゃんか。」
「お互い楽しめるんだからよ」
「あなた達どうかしてる」
ティアナが精一杯の虚勢を張っても状況が不利なことに変わりはなかった。
人気のない厩舎用具小屋は暗く大声を出しても誰にも気付かれない。
そもそも、何故こんな所にいるのか?
それは愛馬の世話をしていたティアナにいきなり背後から襲いかかり、口を塞がれ暴れる手足を2人がかりで抑え込まれて厩舎用具小屋に連れ込まれたのだ。
噂が拡がって男性からの目が不穏なものになっていたので、誰かいる場所にいるようにしていたが、手紙の内容にどうしようか、と考えることが多くなり油断していた。
歯噛みしながらも相手は男2人、しかも兵士ときた。
最悪な状況だ。
抵抗し続けるティアナにキレた男はティアナの顔と腹を殴りつけた。
「うっ、ゲ、ゲホ…」
「おい、おい、顔はやめとけよ。楽しめねえだろ?」
「うるせえな、どうせ大した顔じゃねえし」
力任せにベルトをずらされ、シャツは引きちぎられる
男は両手を拘束し、もう1人は足を広げた状態で押さえつけている。
首筋に生ぬるい舌が下から上に舐めティアナの耳元に男の興奮した息遣いが聞こえる。顔を背け、全身で抵抗を続ける。
「やめて!放して!!」
「うるせえよ、これでも口に入れとけ」
「ッ!」
キレイとは言えないハンカチを口に捻りこまれ助けを求める声さえ封じられた。
「いい格好よねぇ」
突然聞こえたトリシャの声にティアナはビクリとした。その後ろにはアベリア達も控え嘲笑っていた。
目線を合わせるようにしゃがみ、ティアナの頬を人差し指をツゥーっと滑らせ、冷たい瞳で見下ろしていた。
「今から何されるかは子供でも分かるよね」
冷たい瞳とは対照的に優しい声が恐怖を増幅させる。
「あとから騒いでもあんたの噂は拡がってるから襲われたなんて言っても誰も信用しない。ま、せいぜい楽しんでよ」
「…ぅー、ううぁー!」
「何言ってんだかわかんない」クスリと笑って男達に合図を送る。
「サッサと出てけよ!」
扉が閉まり暗闇が小屋を支配した。