第15章 悪意
楽しく食事を摂って宿舎へ戻り、お風呂セットを取りに自室のドアを開けるといきなり突き飛ばされ誰かが部屋へ強引に入って来た。
何が起こったのか分からないまま、振り返ると女性が顔を歪ませ睨んでいる。
確かトリシャだっけ。
「ねえ、あんた、なんなの?」
「え?」
「いい子ぶってる割には男誑かすのが上手ね」
何を、誰?誰を誑かす?
「なんとか言いなさいよ、エルヴィン分隊長にリヴァイ。手玉にとってさぞ気分いいんでしょ」
彼女ひどく勘違いしてる。
「誤解してる、エルヴィン分隊長やリヴァイなら分隊長はただの上司でリヴァイは友人だよ」
「そんなの通る訳ないでしょ。分隊長や他の古参兵にもリヴァイにもどんな色目使ってるの?ティアナ教えてよ」
「色目なんて使ってない、分隊長は業務の話だしリヴァイは友人だから街を案内しただけ」
「よく言うわ。一般兵なのに分隊長にはよく呼び出しされて、業務上?休みはリヴァイと2人きりお出かけで色目使ってない?」
だめだ、これ以上なにを言っても聞いてくれない。
「とりあえず私の部屋だから出てってくれるかな」
やましいことは何一つない。だから毅然と。
バチン!頬が熱い。顔が勢いよく左に振れる。打たれたんだ。
「あんたみたいな女がいると風紀が乱れんのよ!」
トリシャが叫んだ時には髪を鷲掴みされ、痛みが走り呻き声がでる。
振り回されブチブチと髪がちぎれる音がする。
髪を握っている手を手首で払って思い切り突き飛ばした。
トリシャが後ろによろけて床に倒れる。
その隙に部屋から飛び出した。
廊下に転げるようにでると他の人に構わず、とにかく走った。
走って走って宿舎を出て気づいたらいつもの場所にいた。
前後を見て誰も居ないのを確認したら恐怖が襲いかかった。
敵意や嫉妬を含んだ目や態度には慣れてる。
だけど、だけど手をあげられるのは慣れない。絶対に。言葉の通じない巨人よりも言葉の通じるのに伝わらないのが怖い。
泣くな、こんなことで泣くな、泣くな!
言い聞かせても目から溢れる水分は止まらずカタカタと震える体を腕で抑えるしかできなかった。
どこにも行きたくない、誰にも会いたくない。