第12章 エルヴィンの思い
カリカリカリ、サインし訂正箇所を書き込んで集中していたエルヴィンは再度やってきたハンジに気づかない振りをしたいが、それで引き下がるハンジでもないと長い付き合いで分かっていた。
「ありゃ〜まだやってるのかよ」
仕事はどうしたんだ、モブリットは何をしているんだ。半ば八つ当たりの気持ちを胸の中で呟く。
ハンジが来たなら仕事は中断するしかない。
「何の用だ。ハンジ。」
「んー、ティアナを異動させたいのは分かったんだけど、いつからは聞いてなかった。と思ってさ」
エルヴィンもそれに関してはまだ検討中だった。
まずはハンジに異動を了承してもらってから異動日を伝えるつもりだった。
「引継ぎが終わり次第だ」
「なるほど、それは当たり前だったか。」
ケラケラ笑うハンジは先程あんなに怒っていたとは思えないくらいだ。
「エルヴィン、もう私はティアナの異動には賛成しないけど反対もしない。ティアナの味方はするけどね。」
ハンジにはこういうところがある。
全体を柔軟に捉え、臆せず意見を述べる。
「どうせなら私の味方をしてくれてもいいじゃないか」
「やだよ、自分の思いすら言えない男を擁護して何になるのさ」
「そんなつもりないんだがな」
「どーせ、ティアナにも本当の理由とか、あなたの考えとか言ってないでしょ。せいぜい異動だ、異論は認めない。くらいでさ。」
「言ってどうなる?結果は同じだろう」
「ホンットめんどくさい!あなたがティアナを特別な目で見てんのは本人以外バレバレなのにさ」
「俺はただ兵団の利益を考えてるだけだ」
「ふぅーん。じゃあ、ただの金蔓か。あなたの希望通りになったってティアナは金蔓になんないよ」
「ティアナからでなくとも得られる資金援助は兵団にとってありがたい金額だ、そろそろモブリットがここに来るんじゃないか?」
「話を逸らすんだね。まあ、それもいいかも。さっきも言ったけど後悔してからじゃ遅いんだよ」
「ハンジ、いい加減にしろ。俺は暇じゃない」
「あっそ、モブリットが来る前に退散するよ。じゃね」
パタンと今度は静かに閉じられた扉を確認して強く目を閉じた。
「俺は…」