第11章 夜の帳と命令
エルヴィンの執務室は最上階の団長室と同じフロアにある。何度も呼び出され同じことを話し合い、否と言い続けた執務室。
階段を上がって団長室から斜め反対側にエルヴィンの執務室はある。
覚える気がなくとも何度も呼び出される事で上官フロアのどこが誰の部屋、、とか覚えてしまった。
エルヴィンの執務室に促され先に入室する。
整然と並ぶ書類の山。本棚にはキッチリと背の高さで並べられた本。不必要なものが無い仕事をするだけの部屋に一応備え付けられたローテーブルとソファ。
奥には執務用のデスクが鎮座している。
「まずはお茶をして話そうか」
「結構です。実りのないお話になると思いますので」
エルヴィンはソファに座り眼光鋭く向かい側のソファにつけ。と威圧してくる。
仕方なくソファに座ると手の空いた兵にお茶とお茶菓子を持ってくるよう言いつける。
暫しの間、会話も目も合わさず空気だけピリピリする
ノックの音でお茶を頼まれた女性兵がエルヴィンの許可を得て入室した。
雰囲気に押された女性兵はそそくさと去り、エルヴィンは紅茶を優雅な仕草で飲み始めティアナにも勧める。
ティアナは促されてもカップに口をつけず、ただエルヴィンを険しい瞳で見ていた。
「そう身構えなくてもいい」
「そうでしょうか。私は常にあなたに警戒警報が鳴ります」
「まあ、いい話だ。君は退団に決して首を縦に振らない。私は君に退団して欲しい。この平行線の話を譲歩する話だ」
「素敵なお話ですね。何度も申し上げましたが私は心臓を捧げました。今更それを返してとは一言も言っていません。」
「事務官も兵団の人間だ、何も前線に出るだけが兵団員じゃない、サポートとして兵団になくてはならない」
「そうですね。そして私の意思は蔑ろにされ、上司に泣き付き死なない部署に逃げたとの烙印を押されよ。と?」
「ティアナ。私が譲歩出来るのも、我慢できるのもここまでだ。命令と一言だせばその通りにしなくてはならないのは分かっているだろう」
ギリッと奥歯を噛み締める。
(確かに、この目の前の男が”命令"という魔法の言葉を言えば、私の意思、意見はなんの意味も持たない。この男には私への周りの白い目だって関係ないものだ)
「まあ、少し頭を冷やして良く考えるといい。結果は同じだとは思うがね」