第9章 壁外調査の後
右翼側から尋常ではない蒸気は、まるで狼煙のようだ。
左翼側は持ち直している。
ミケ班からの伝令が慌てて来た。右翼索敵一部損傷……あの狼煙の下。キース団長に許可を得て途中合流したミケを連れ狼煙の元へと。
何も語らずに向かった。
そこには、複数体の巨人の残骸。蒸気で見えにくいが、血と無惨な遺体がそこかしこに。
雨に濡れ、血に塗れ膝を折ったリヴァイの頬は涙とも雨の雫とも取れる水分が流れ、項垂れていた。
この様子では彼以外の生存者は居ないようだ。
彼とともに地下から来た2人も………
「無様だな。」
その言葉に激しく反応したリヴァイは、飛びかかる勢いでブレードを向け切りかかる。
ミケが取り抑えようとするが間に合わず避ける間もなかった。
ポタリポタリ手から血が流れ、血溜まりを作る。
リヴァイがもう少し力を入れると、俺の手は巨人のうなじのように切り落とされるだろう。
「お前を殺す!!その為に!」
「ロヴォフの不正書類はダミーだ。本物はとっくにザックレー総統に渡っているだろう。」
「命を掛けるには割に合わねぇ、取引に関わっちまったな。俺らもお前もっ!!」
激情が奔る。静かに俺はリヴァイに問う。
「お前の友人を殺したのは何だ。」
「お れ、おれのちんけなプライドが…」
「巨人だ!なぜ巨人は人を食う?私たちは何も知らない。」
「あ、……ああ…あ…」
「よせ… 後悔はするな 後悔の記憶は次の決断を鈍らせる。そして決断を、他人に委ねようとするだろう。そうなれば後は死ぬだけだ」
エルヴィンは騎乗し変わり果てたフラゴンを一瞥する。
「壁外調査を続ける。リヴァイ、お前も来るんだ」
リヴァイは、イザベルの瞼をおろし、ファーランを見つめた。
(じゃあな。お前ら。また…な…)
いつの間にか、雨は上がり、雲の隙間から太陽の光が差し込んでいた。
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右翼で何かがあったらしい。赤と黒…の信煙弾が何度もあった。
ハンジさん、モブリットに伝令がきて陣形を狭めたところで、右翼から白い煙が上がっている。
あれは巨人が討伐された後の蒸気に似ている。
「ハンジさん!何が?!」
「私にも分からない。ティアナ。とにかく前へ進むんだ」
不意にファーランの優しい笑顔とイザベルの無邪気な笑顔が脳裏に過ぎった……