第45章 独りじゃない
早朝だが、あの仕事人間は机に張り付いているだろう。
ティアナの旧友からの情報待ちと言ってはいたがあの男がそんな呑気なはずがない。自前で情報収集しているだろう。
ドアを開けると予想通り、とエルヴィンに話しかけようとする前にエルヴィンに先手を取られた。
「ティアナは落ち着いたか」
「ああ。あいつも逃げ回るつもりはもうない」
一瞬、揺れた瞳はまばたきするといつものエルヴィンのぶれない瞳に戻っていた。
「まあ、相手の手の内を知っておくのは定石だ」
この一言ですでにエルヴィンが以前から情報を集めていたとリヴァイは判断した。
「今後についてもだが、今お前が持っている有用な情報はなんだ」
痛いところを突かれたのか、「相変わらず鋭いな」と苦笑している。
「もう隠してもしょうがないが、ディアナはティアナに強烈な感情を持っている。それこそティアナのそばの人間を巻き込むことも厭わない。彼女がそうしてもお咎めなしでいられるのは背後のパトロンのおかげだ」
「そこまでは聞いている、その先をさっさと話せ」
「では簡潔にいこう。ディアナの一番のパトロンは王族のはしくれと王政府の高官だ。目の前で犯罪を起こしでもしない限りは迂闊にどうすることができない」
「なるほどな、ティアナはどうしたって不利なわけだ。それで、どうする?壁の中は狭い。逃げるにしてもいずれにしても時間稼ぎにしかならねえだろ」
「王族だろうが王政府の役人だろうが高い地位にいればいるほどスキャンダルは避けたい。実際ディアナは彼らの力で調子に乗っているから頭を抱えているらしい。そこにうまくつけこめば彼女を即座に切り捨てるだろう」
「上でふんぞりかえってる奴らなら痛い腹はいくつもあるもんだろう。何故いままで放置していた?」
「はっきりとした確証がなかったのと侯爵も巻き添えになる可能性が高かったからだ」
「わからねぇな。そこでティアナ側の侯爵が出てくる」
「侯爵には二人の息子がいる。一人は調査兵団に入団して殉死したが、もう一人の息子のディートリッヒはディアナと同じくティアナに執着している。父親の侯爵が危惧するほどに」
リヴァイは顔を見たこともない、侯爵家の息子にどす黒い感情を覚えた。執着する理由が何であれティアナを傷つけようとしてることに変わりはない。