第43章 目の前にある過去
店を出て、夜風に当たれば少しは酔いも醒めるかと思ったが思いのほかアルコールが効いているティアナは千鳥足で支えていないとまともに歩けないだろう。
「世界が回ってるね~ふわふわする」
「回ってるのはお前の頭だ、ばか」
「んふふ、見て!星が良く見える」
指さす夜空は雲一つなく、月が大きく見える。
「そうだな、悪くない」
兵舎に戻るにはしばらく歩くが、ティアナの今の状態ではいつまでたっても帰れない気もするし足の負担も気になる。
丁度いいところに木箱が道の端に置かれているのでティアナを座らせ、俺の背中におぶさるようにした。
始めは抵抗していたが酒にやられているティアナはいつもよりは素直だ。
「ごめんねえ、おも……」
「寝やがった」
しっかり話しているようだったが後ろでは寝息が首筋にかかってくすぐったい。背中から感じる体温は熱く意外にも心地よいと思っている自分がいる。
それを長く感じたくてゆっくりと歩いた。
※※※
兵舎のティアナが引っ越したばかりの部屋で寝かせよう。ひさびさにティアナを感じたいが、さすがに酔っぱらって前後不覚になっているティアナに手を出すほど馬鹿じゃない。が、すっかり寝入っているティアナに部屋の鍵を出せと言っても本人は夢の住人で仕方なく服のポケット、カバンの中を探ってやっと部屋の鍵を見つけた。その間、冷えるだろうがティアナは壁にもたれさせている。倒れないよう、俺の体で支えてはいるが他からみたら勘違いするだろう。酔った女の部屋に押し入ろうとする不届きな男にしか見えない。
ティアナからは「ん~」とか「しょれねぇ~」と一体なんの夢を見てるのか、のんきなもんだ。
ドアを開け、ティアナをベッドに運ぼうと抱き上げると無意識なのか、首に手を巻きつかせて密着してくる。
アルコールの匂い、上気した頬、高い体温。
すべてが俺を誘っているとしか思えない。
理性を保とうと大きく深呼吸するも、ティアナからは寝息なのに妙に艶のある声が漏れている。
シラフなら絶対にこうならないティアナに我慢も限界に近づいている。だが、こんな状態で手を出すのは男としてどうなのか?誘うこいつが悪いのか。しばらくベッドの上のティアナを見つめながら誰も知らない戦いに苦戦していた。