第43章 目の前にある過去
一度深呼吸をして、リヴァイのブルーグレイを見つめる。大丈夫、ちゃんと話せる。
「前にちょっと話したわたしがアーリヤになった話の続きを話したいの。わたしがアーリヤに戻りたくない理由も兵士にこだわる訳もそこにあるから」
無言で頷くとティアナはほんの少しだけ悲しそうに微笑んだ。
「確かアーリヤがティアナ・ディーツになったところまでだったよね?覚えてる?」
「ああ、覚えてる」
目を伏せながらティアナも頷く。
「その後の暮らしは順調で、きれいな服、宝石とかお姫様みたいな生活してた。うん、とても恵まれててみんな優しかったし会う人会う人が称賛する。それが当たり前の生活…リヴァイがいう豚野郎だね」
「そうかもな。まあ俺の口が悪いのは勘弁してくれ。全部の貴族がそうだとはさすがに今は思っていないが、そういうのが大半だとは思っている」
「あながちそれは間違ってないよ、やっぱり傲慢な人はいるし。お金と地位と権力がすべて。って人も多いから」
どこか遠くをみている瞳は俺の知らない表向きはきれいな世界の裏側を映しているんだろう。
「いつからか、その恵まれている世界がむなしくなった。それは傷だらけで帰還する調査兵をみた頃とわたしの身近な出来事で感傷的になったから。だんだんアーリヤとして生きていくのが苦しくなっていったんだけど、振り返るとただの無いものねだりだったのかもしれない」
時折、自嘲するような話し方になって目を伏せてはカップの取っ手をなぞる。
「でも音楽に浸っている時はその気持ちを感じなかった。だからもっと、もっと音楽にのめり込んで自分の楽団をつくった。まだ子供だったからいろいろ難しかったけどコーネリウス様が後ろ盾だったからできたんだ」
確か、高位貴族で調査兵団にも多額の資金援助も行っていてエルヴィンがティアナを傷つけることなく退団させたい理由の一つ。
「自分でいうのもなんだけど。楽団には優秀な音楽家が揃ってて以前よりもアーリヤの名声は高くなっていってその分嫉妬や妬みも買うことになったの」
どこの世界でも目立てば妬み、やっかみはついてくるだろうと中央へ出向いた際や夜会の時の雰囲気を思い出す。
一見、柔らかで親切そうに接するが、相手を蹴落とす隙を探すその目の奥にはギラついたもんが隠し切れずにいる野郎どもしか俺は知らない。
