第42章 選択する勇気
薄いカーテンから光の帯が広がり病室を明るくしていく。
あれからティアナは穏やかな眠りについた。
隣で仮眠をとってそっとベッドからおりる。
自分に用意されたベッドのシーツを整えてから洗面所で顔と歯磨きをして着替える。
水差しの水を飲んで体に水分が行き渡ると頭も体も動き始めてきた。
懐中時計で時間を確認するとそろそろ起床時間だが、ティアナが起きる気配はない。
そっと顔に掛かっている髪を耳にかけると擽ったそうにするティアナの頬を撫でると閉じていた目がゆっくりと開き、起こしてしまった。
「おはよう」
掠れた声で朝の挨拶をすると猫のように伸びをする。
「寝坊した?」
「まだ寝ててもいい」
「ううん、もう起きる」
上半身を起こし、すっかり起きたティアナに水を差し出すと笑顔で受け取って一気に飲み干す。
コップを受け取ってサイドテーブルに置くとティアナは困った表情をしている。
「どうした?」
「寝起きの顔はあまりじっと見られるの恥ずかしい」
思わず軽く笑ってしまうとティアナはムッとした表情になる。
「今更だろう?」
「恥ずかしいのは恥ずかしいんだってば」
「わかったから、そう怒るな」
「怒ってないけど?」
いい大人がする会話ではない気もするが、俺はなんでもない会話を交わせる少ない時間も好きだ。
控え目なノックがあり、ティアナの介助をしている医療班の担当者が入室してきた。
それぞれ朝の挨拶をし終えると、朝支度をするので。とさり気なく追い出されてしまった。
ティアナには仕事が終わったら来るからと言って、執務室へ向かい鍵を開ける。
窓を開け空気を入れ替え、今日のスケジュールを確認する。
午前は訓練指導、午後は執務があるがそう時間はかからないはずだ。
朝食後にでもペトラを探してティアナの部屋からとってきて欲しい依頼とついでに”恋愛小説”とやらの情報も仕入れておこう。
淹れたての紅茶を飲みながら、段取りを考えデスクの書類に目を通す。
そう難しい内容のものはなく、ハンジ当たりが期限切れの書類を悪びれもせずに大量に持ってさえ来なければ、手はそんなにかからない。
頃合いを計って食堂にペトラを見つける為に足を向けた。