第35章 845
静かな昼下りだった。シガンシナでは幼い子供達が何でもない夢を語り合っていた。その時に地震のような地響きが、次に町に音が無くなり呆気にとられた声がそこかしこから聞こえる。
巨人が壁から顔を覗かしてこちらを見ていて。
状況が少しづつ理解できると小さな騒ぎが一斉に我先に叫びとともに動き出した...
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トロスト区の調査兵団に駐屯兵団から早馬が到着し、シガンシナ区だけではなくマリア内は巨人が侵入していると報告があった。
シガンシナからマリアを超えてトロスト区へと続々と負傷者、逸れた家族を探し求める悲嘆に暮れた人々で溢れかえっていた。
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「こっちも診察してくれ!!」
「重傷者が先です!!!」
「誰か!こんな子を見ませんでしたか?!」
「うーわぁ~ん、お母さん~どこぉ」
怒声や泣き声、叫び、混乱で町の診療所、兵団の医療従事者らが総出で事に当たるが人も物資も何もかもが足りな過ぎる。
いや。被害者が多すぎるのだ。
ティアナも入り乱れた人のなかで出来る事を必死に処置していく。それでもなお、出来る事は限られてどこの誰かも聞けぬまま看取ることが大半だ。
「ティアナ!こっちにきて止血をしてくれ!!」
ハーミットもユンカーも誰もが余裕はない。
誰もかれもが初めての出来事に動揺しつつ何とか目の前に対処するので精一杯。
どこからか聞こえてきた”調査兵団が不在の時に・・”
全くそうだ。壁外調査に彼らが出て行ったのは今朝。
その午後には誰も思わなかった惨劇が襲った。100年ぶりに。脅威は壁を越えて人類に巨人の脅威を知らしめた。
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その頃、異変に気付いた調査兵団は壁内へ戻る為に最高速度で馬を飛ばしていた。
緑の煙が見え、陣形を狭めたことで伝達はスムーズに行き渡ったが恐怖が襲う。壁の中には大切な人たちが。
焦燥感が更に兵士の心を乱す。
「壁が見えてきた!!」
前方から広がり、そして彼らは絶望が待っていた。
壁には歪な穴が開き、周囲にはゾロゾロと巨人たちが蠢いている。
キースは団長として兵士の士気を挙げる。
壁はもうそこまでに迫っている。
一人どこか冷静にエルヴィンは巨人の群れを蹴散らしながら、どこまで巨人が蔓延っているのか、壁はどこまで破られたのか?と思案していた。