第1章 序章 支援者の微笑み
競うように華やかなドレスや宝石類に着飾った貴婦人達
タキシードを身にまとった紳士達はステージ前、横からの歌声と舞と響く音に目も耳も閉じられなかった。
この楽団は他の楽団とは異なる手法で観客を魅了する。と前評判も上々だったが予想以上だった。
メインの歌姫は中央で高いが不快ではないソプラノと低すぎない低音で歌い舞う。
その後ろはコーラス組であり、時には前面にでて歌姫のサポートするように歌声を披露する。
そして比較的広く音の反響を考えられてても、どうしても後部席の観客達には遠く満足のいくコンサートではなかった。
いつもならば。
会場の二階部分にステージ前の楽団とは別に左右に分かれた演奏家たちが、息もピッタリ合わせた音で会場は沸き立っていた。
終わりに向け更に激しくなる声と音に翻弄される。
そのなかに場違いな雰囲気の男が二人。
黒のジャケット、白のシャツ、黒のパンツスーツ
彼らにとってはせめてもの正装だが、着飾る人々の中では浮いている。
一人は堅物の団長キース・シャーディス。
その隣には兵服でなければ貴族と間違われそうな容姿のエルヴィン・スミス。
彼らは兵団の支援者からコンサートに招れていた。
支援者からの招待で断る選択はない。
周りの観客達が興奮する中エルヴィンは気づいた。
メインの歌姫はただ舞っているのでは無く、視線や手振りなどで、指揮をとっている。
それはにわかには、信じ難い事であったがキースも気づいているようだ。
「キース団長、あの歌姫の名はアーリヤでしたか。あの声には驚きました。」
「エルヴィン、たまには支援者に呼ばれるのも役得だと思わないか?」
「確かにそうですね。さすがディーヴァと崇拝されるのがわかります。」
静かに言葉を交わす間に終幕を迎え周りの観客は一斉に立ち上がり賞賛を贈っている。
今夜は素晴らしい夜だ。支援者からの招待でなければ。
着飾った人々が興奮冷めやらぬ様子で会場から出ていく。この後のパーティーはどこぞの伯爵邸で行われるらしい。
そしていつもの疑問を言葉にする。
「今夜もディーヴァの顔は仮面で見れなかった」と。
横でその言葉を聞きながら、じっと席に留まった。
観客達は次の楽しみへと向かい二人は会場に残った。
その頃合で白髪の男性が綺麗なお辞儀をして二人を招いた支援者の元へと案内した。