第28章 帰ってきた
そうだ。俺が聞きたかったのはこの声だ。
澄んで落ち着く声。
ティアナは俺がどんなに会いたいと思っていたか、声を聞きたいと思っていたかなんて知らないだろう。
あの公演の時はまるで遠慮して歌ってるようだった。
思い返せば公演の時、ティアナは仮面で顔を隠していた。
単純に兵団関係者に知られたくなかったのか、他に意味があるのか。知りたい。
誰かの事情に自分から入りたがるのは野暮だ。
それでも知りたい。
ティアナが歌い終わり、ヴァイオリンケースに手を伸ばしたタイミングで俺は疑問をぶつける。
「話したい事ってのは何だ」
ビクリと体が動いた。
「えっと、今じゃなくても良いかなあ。と思うんだ」
「今だ。」
ふぅ。息を逃がしてティアナはこちらに振り返った。
その目には躊躇いに揺れてどうやって話そうか悩んでいるようにも、話したくないようにも見えた。
「長くなるよ、ここで話すには時間が足りない、かな?」
「いつなら良いんだ」
「リヴァイの休養日はいつ?」
「――俺は四日後だ。」
「なら、その日に。私もハンジさんにお願いするから、その時に外出してゆっくり話したい」
「わかった。」
本当は今すぐ知りたい。何を隠して何を悩んでいるのか。何を話したいのか。でもこれ以上の無理強いもしたくない。
その後、何となく空気が変わってしまい、その夜は早めに帰ることになった。
四日後、俺達は街に居た。
上手くハンジから休みをもぎ取ったらしく、翌日には待ち合わせの時間と場所を決めて、初めて行ったあのカフェのテーブルに着いていた。
もちろん俺は紅茶を頼み、ティアナはカモミールティーを頼んだ。ポットで頼んだのはそれなりの長丁場になると感じたからだ。
「ここ、覚えてる?リヴァイは全部の茶葉の試飲するって言って、あの時は内心ちょっと引いたよ」
クスクス笑いながら、ティアナは思い出話を始めた。
あれから俺はこの店に来ては紅茶を飲んで茶葉も買い求めるようになって店員も俺の好みを知っている。
それをティアナに話すと気に入って良かった。と笑う。
今日はよく笑う。いや、いつも笑っている方が多いが今日は無理をしている。
「どこから、、そうだね。ちっちゃい頃からかな。」
ティアナは少し悲しそうに笑った。