第26章 過去話
仕事をやっと終えたエルヴィンは首の凝りを解しながらシャワーを浴びようとクローゼットを開いた。
シャワーから上がり、グラスに入れた水をグイッと飲む。冷たい水が喉から体に流れていく感覚を爽快に感じながら昼間のハンジ達との会話を思い出す。
その流れでティアナとの初めての出会いが記憶から溢れてきた。
93期生が配属されて、あちらこちらで元気な挨拶が聞こえるようになった。
「「「おはようございます!」」」
心臓を捧げる礼をとる新兵に直れと手で合図し言葉をかける。
「おはよう、今日の訓練も頑張れよ」
「「「はい!ありがとうございます!!」」」
当時、分隊長だったエルヴィンはミケと新兵と廊下であった
そこでミケがいつものようにクンっとやってしまった。しかも女の子達に。
あまりの事にみな、固まってしまいどうしたらいいのか、先輩兵士の奇行に目を見開いていた。
「すまない、彼の癖なんだ。他意はないので許してやって欲しい」
フォローを入れるもミケはフッと笑うだけで新兵は慄くばかり。
我に返った新兵の一人が「失礼しますっ!」と声をあげると一斉に走り去った。
「ミケ、その癖は何とかならないのか、、」
ミケが変わるよりも新兵が慣れるのが恐らく早いだろうが暫くは新兵達の話の種になるだろう。
「エルヴィン、気になる匂いがあったぞ」
怪訝な顔でミケを見やるとミケはやけに真剣な表情で言った。
「俺が警護で着いて行った公演の女の匂いがした。」
ありえない。分隊長の挨拶後も歌姫と名高いアーリヤの公演には何度か誘いがあり、ミケも連れ立った事もある。その時は勿論、挨拶もしていたし、流石にミケも匂いを嗅ぐことはなかったが、新兵からその匂いがすること自体ありえないのだ。
しかし、ミケの嗅覚は確かだ。
本当に彼女なのか、確認する必要があった。
もし本物ならば何故兵団に居るのか?
結果としてアーリヤはいた。ティアナという新兵として。
分隊長として詳細を聞き頭を抱えた。
それからは、何度も何度も手を変え品を変え、退団と元のアーリヤとしての生き方に戻るよう説得、脅し、なんでもしたが、ティアナは決して譲らずキースに話し団長権限で退団を促すがそれでも退団とはならなかった。
コーネリアスの機嫌を損ねる可能性は兵団の懐事情にも影響を及ぼすからだった。