第25章 保護者会
「それで、あの子は元気だったかね?」
カチャとカップをソーサーに置いた老紳士に控えていた側仕えがおかわりを注ぐ。
「ええ、元気でしたよ。ただ、前線の本部から離れた医療隊に異動になってましたが。」
「ああ、それならキース団長から知らされているよ。何やら兵士間のトラブルで一時的に異動させたとの事だった。」
「それは聞いてなかったですね。何かあったな、と感じはしましたが、聞かれたくなかったようなので」
「あの子なら話さないだろうね。心配かけると余計な気を回したんだろう」
「まったく、気が強いのも変わらないですが、困ったものですね。」
柔らかく微笑む老紳士は同席者のクルトに紅茶のおかわりを勧める。
「あの子はこうと決めたら誰にも止められんよ、そうだ、ヴァイオリンは気に入ってくれたかな?」
「はい、とても大事そうに抱きしめてましたよ。前のも大事にしてたはずなんですが、ね。」
クルトのなかでピースがはまった。
恐らく、[兵士間のトラブル]で愛用のヴァイオリンにダメージがあったんだろうと。
「侯爵は調査兵団からティアナを多少無理やりにでも退団させたくは、なりませんか?」
戸惑いながらも自身の望みは侯爵と同じと思い訊ねる。
「できるならば、そうしたい。以前のように歌って踊っている、それがいいと今でも思うよ」
フッと苦笑いし、カップを口に運ぶ。
「今からでも呼び戻すのは如何でしょうか?」
クルトは侯爵が首を縦に振れば、ティアナをアーリヤに戻せることも知っている。
「駄目だ。それだけは出来ない。彼女の生き方は彼女自身が決める。私達が口を出してはいけないよ。」
柔和でありながら断言する侯爵にクルトは異を唱えることは出来なかった。
「じゃじゃ馬姫は空を見すぎたんですよ、困ったものです。」
「そうだね、だが、彼女らしいではないか」
王都の侯爵邸のバルコニーで過保護な保護者達は危険を顧みない大事な人について語り、これまで通り彼女の望んだ道を見守ることにした。
日差しは優しく穏やかに話す彼らにそそいでいた。