第1章 夏に金魚の例えもあるさ【煉獄杏寿郎】
「……その」
『はい?』
「接吻をしても、良いだろうか。
今、俺は君がとても愛おしいんだ」
そんなこと。
聞かなくたって、いいのに。
わたしは、返事をしなかった。
その代わりに、顔をあげて、目を瞑った。
煉獄さんの顔が近づく気配がする。
唇は、からだは、わたしは、強ばるばかりで。
さらり。
彼の髪が、頬に触れる。
唇に、生きた温度がよぎった。
あつい。
でも、恐る恐る頬に添えられた手は、指先は、つめたい。
なんだかすべてが心地よくて、わたしはゆっくりと彼の首に腕を回した。
むう。
抗議をするように、彼が唸る。
それでもわたしは、やめない。
なんだかもうすべてが愛おしくて、彼のすべてが欲しくなって、まるで彼を食べるように、唇を求めた。
もっと、もっとと、愚かな子どものように。
唇を合わせながら、彼は呆れたように笑みをこぼした。
炭酸が、サイダアが弾けるようだった。
それだけで、その感触だけで、生きていける気がした。