第5章 狂王子の帰還
———錆びついた繁華街の路地裏。
『シェパード2、先行し過ぎだ! 今どこにいる!?』
『……ハウンド4が………佐々山が見付からない!』
『どうなってる!? あいつはどこに行った!?』
『落ち着け狡噛! 状況が掴めない、一旦戻れ!』
『佐々山を連れ戻す!! きっとこのどこかに…!!』
『……佐々山…?』
ソファーで寝ていた狡噛は目を覚ます。目の前に見えるいつもと変わらない部屋の天井が写り、今まで自分は夢を見ていたのかと気づく。そして、夢から覚めたあとにやってくる独特の倦怠感が身体を支配する。
——3年前のあの日の出来事が今も彼の頭の中にこびりついている。体を起こしてジッポで煙草に火をつける。
狡噛は、自室の壁に貼ってある、もう戻ることのできない、佐々山と自分が一緒に写った写真を見つめた。
それから、部屋の隅に置いてある、つい数日前に自分でここに持ってきた楽器とそのケースに目を移した。
『は……? ……亜希が行方不明、だと……?』
『……あぁ、そうだ。数分前に連絡を取ったっきり反応が無い。唐之杜が今、亜希の位置情報を取得しているところだが———』
『亜希の目撃情報や遺体は見つかってない。この事件に嫌気が差して逃げたのかもしれん』
『何を言っている!? あいつはそんなことするような奴じゃない。きっと何かに巻き込まれたんだ!!』
『亜希嬢が逃げるかねぇ……』
『………とっつぁん、亜希はあの件以降姿を現していない。自宅にも訪ねてみたが居なかった。……恐らく、あそこで何かあった』
『コウ、お前……』
夢だったらどれほど良かったか、そう何度も思う出来事が事実として脳内に映し出される。
狡噛は、その記憶を消すように煙を吐き出した。