第4章 はじまりは唐突で不確実に幕が上がる
——ある日の刑事課一係の執務室。
部屋には常守、縢、征陸が居た。今日、狡噛、宜野座、六合塚の三人はどうやら非番のようだ。
常守は、先日の八王子ドローン工場の報告書を書いていた。デスクの上に酒瓶を並べている征陸は作業をしていた。縢も先ほどまで作業をしていたのだが、數十分すると「おーわりっ」と言ってゲームをし始めた。
……これは常守が先週あたりに気づいたことだが、どうやら彼の仕上げた書類云々はかなり雑なもので、同じ立場の宜野座が言うには"まるでゴミのようだ"、とのこと(この台詞には常守もそんな言い方はないんじゃないか、と思ったがどの項目も一文で片付けてしまう彼の報告書にはなんとも言えなかった。けど、それも彼らしくていいんじゃないか、と思ったけど)。
今日に至るまで色々なことがあった。征陸と二人でサイレンに導かれるままに今仕上げている足立区の事件を解決。そのあとに縢が常守に反発したこともあって多少言い合いにもなったが今では仲良くやれている。……そう言えばドローン工場での事件では宜野座さんと征陸さんが過去に何かあったってことが分かったし、狡噛さんの無茶苦茶すぎる行動には最初どうしていいか分からなかったけど「自分の部下を信じろ」と言った彼のことは信じたい……と思った。
——そんなことを心の中で言い放っているとある一つのことを思い出した。
………そうだ。真壁亜希さん……。
征陸と一緒に出勤したあの事件の直前に六合塚から教えてもらった名前。——それは、"あの"机の上にあったヴァイオリンの持ち主(多分そう、と常守は思う)のこと。そこまで思い出して常守は気づく。
………あれ、楽器が無い。
——ここ最近はバタバタしていて自分が今座っている椅子にも長い時間座らなかったせいなのか(まぁ、只々忙しかっただけだが)、常守は、即座に同じ部屋にいる執行官二人に言葉を投げる。
「あ、あの。あそこにあったヴァイオリンどこにいったんですか?」
………常守が何を言いたいのだろうか、とその台詞が耳に入った二人は最初そう思ったが彼女が言い終わる頃にはあぁ、そのことかと思う表情で常守の方を見て彼らは口を開く。