第3章 刹那の平穏
木々が生い茂る森林地帯。木、一本一本は葉を落として地面に金の色を作っていた。その、すこし道を行った先にある一軒の家、こじんまりとした家の中に三人の人間が居た。
一人は女性で二人は男性。女性と男性一人は同じ色をした髪をしていた。残りの男一人は茶髪で右側に髪を垂らしてあるようだ。一見すると分からないが、よく見ると彼の目は義眼であることがわかる。
居間に集まって過ごしていた三人。色の髪を持つ二人はソファーに座っていた。女性側のソファーのすぐそばの床にはヴァイオリンケースがあった。そのケースの上には手書きの楽譜が何枚か置いてあった。下から覗くケースには傷が多くあり使い古している形跡が見える。男女二人の方からはカチャカチャと音がテーブルの上から聞こえる。どうやら、給仕ごとをしている一人の男から出される紅茶を味わいながらプレートにのった菓子も堪能していた。
——どうやら彼らは今、ティータイム中らしい。
「……グソンさんの淹れた紅茶は美味しいわ」
今まで誰一人喋ることはなかったがここで女が口を開く。“グソンさん”と呼ばれた男、給仕をしていた男は「それは嬉しいお言葉ですこと、お嬢」と立ったまま返す。すると、彼女の隣にいた男の口が動く。「ダージリンのセカンドフラッシュは僕も好きさ」と述べたあとにこう話す。
「今回のモチーフはどうだった? 亜希」
彼はその台詞を言ったあと、カップの中の紅茶を飲んだ。彼の方を向いて彼女は言う。
「ええ。今回も楽しかったわ」
彼女は今まで左腕に抱えていた本をさっとテーブルの上に置いた。その本には『1984』と大きく書かれていた。
「亜希のインスピレーションはなかなか面白いからね。完成形を聴くのを楽しみにしているよ」
「……もう本から発想を得ることも慣れたわ。今ではもうすっかり得意なことかも」
「——不快かい?」
「いいえ、寧ろ快いわ。……まぁ、音楽をやることが私にとっての“生きがい”だから」
「亜希ならそう言ってくれると思ったよ」
彼はカップを静かにソーサーの上に置いて彼女と向き合う。