第11章 間章 -Interlude-
「慎也。……あなた、そう言えば午前中、佐々山君と騒がしくしていたけれども、何かあったの?」
そう狡噛に尋ねた頃には、亜希の汗も引いていた。
「あぁ……あれか。なんだ、お前も聞いてたのか」
「話の内容までは分からなかったわ。ちょっと報告書書くのに手間取っちゃって、姿しか見れなかったの」
楽器を抱えながらも、テラスの手すりに腕を預けて、真っ直ぐと景色を見つめながら亜希は言った。
そんな彼女に狡噛は、数秒沈黙した後に喋り出す。
「…………今週の金曜日、俺の誕生日なんだ。……それで少し……いや……だいぶ、佐々山が五月蝿くてな……」
はぁ、とため息をついた狡噛。
「あら、そうなの。慎也って、夏生まれだったのね」
何年も一緒に仕事してるのにこんなことも分からないなんてね、と要点からズレた言葉を口に出して、楽しそうな様子で返す亜希に、「あいつに本気でからかわれたらしつこいって言うレベルじゃ済まないぞ」と狡噛は話す。
「良いじゃない。……そういうのは、適当に合わせておけば」
「合わせてもこれだから困ってるんだ」
と言う彼。
狡噛は、数日前から同じ一係の部下(だけど年上)の執行官である佐々山光留(ささやま みつる)に、自身の誕生日の話で茶化されていた。いや、話のネタにされていたと言う方が正しいのかもしれない。(佐々山は、どこから情報を拾ってきたのか、自分の経歴ファイルでもこっそり見たのだろうか……)。
最初は仕事の合間にその“誕生日”と言う言葉を口にしだし、今週に入ってからすれ違う度に「狡噛、お前が生まれた日の夜は、あのお嬢様口調の亜希に祝って貰えよ〜?」と面白半分に言ってくる様になった(何故か、佐々山の口からは亜希の名前しか出なかった)。
彼は亜希、亜希と彼女の名前を口にだすが、そもそもお互い、誕生日は知らないのである。しかも、仕事の同僚と一緒に夜を共にするなんて、家族や恋人じゃないのにあり得ない、と狡噛は思ったのであった。
「おめでとう、慎也。えーと、今日が13日だから……金曜日ってことは、16日……ね?」
「そうだ」
「何か欲しいものはある?」
「…………は?」
自分の顔を見ながらそう尋ねてきた亜希に、「いきなり何を言ってるんだ?」と、狡噛は思った。