第2章 常守朱は認識する
目に入る情報を一つずつ頭で整理していると誰かの声が聞こえた。
「つーか俺もそんな知らないんだよね〜。亜希さんのこと。……コウちゃんとどんな関係だったかもさぁ〜」
と、縢の伸びた声が聞こえた。
へぇ......そうなんですね、と常守は小さく返すと部屋の入り口からシューッ、と自動ドアが開く音が聞こえ、それに続いて「わりぃわりぃ、遅くなって」と言いながら人が一人、入ってきた。
入ってきたのはこの一係の仲間であるベテランの刑事の“執行官”、征陸 智己(まさおか ともみ)だった。狡噛を撃った常守に対して“とんでもない新人”と言った男だ。褐色で若干跳ね気味の髪を持つ彼は、唇に傷跡があり、昨日の例の事件で左腕が義手だとわかった。愛用のトレンチコートを肩にかけて常守たちの方へやってきた。
「今日の宿直ってお嬢ちゃん?」
常守へそう尋ねる。
「あ、はい!」
彼女は今まで考えていた“それ”をしまって征陸に返事をする。それを聞いた征陸は「昨日の今日で大変だねぇ」と同情した。それから、「まぁ、平和な一日になるよう祈って」と言うが彼が言った途端、部屋中、フロア中、ビル中に無機質なサイレンの音がけたたましく鳴り響いた。——征陸の願望は虚しくあっけなく消えてっいった。
『足立区伊興グレイスヒル内部にて規定値超過のPSYCHO-PASSを計測』
『当直監視官は執行官を伴い直ちに現場へ急行して下さい』
「はぁ……言ってるそばからこれかよ」
「まーオレらはシフト明けッスから頑張って」
「狡噛の穴、あたしが埋めましょうか?」
「いやなに、それにゃ及ばんさ。さ、出勤だぜ、監視官殿」
「……え……?」