第10章 聖者の晩餐
「…………」
征陸が、うつ伏せになっていた狡噛を起こす。常守は、狡噛の血のついた顔や痛々しい姿に、返す言葉が見つからないようだ。
「……ひでぇな、あちこちにもらってるじゃねぇか……。……嬢ちゃん、応急処置は?」
「訓練だけは何度も……、でも、実際にやったことはなくて……」
と言う常守に「なら俺に任せとけ!」と征陸が隣にいた警備ドローンから救急箱を取り出して狡噛の応急措置を始めようとする。
「…………る………」
狡噛の口がわずかに動く。
「えっ?」
常守は地面に両手をついて、彼から出る台詞を逃さないように集中して聞く。
「………もう一人い……る…………お前のダチを………連れて……った……」
かすれ声の狡噛から吐かれる言葉。
「………っ!」
狡噛が指差す方角に顔を上げた常守。
「どいてろ、嬢ちゃん。とにかく血ィ、止めなきゃ……」
応急措置を始める征陸を差し置いて、再びドミネーターを持って奥の道へと走っていく常守。
「あっ! 何考えてるんだ! 監視官!!」
征陸の叫ぶ声が聞こえる。
「まだ事件が終わってないんです!!!」
そう言って常守は、斜面を駆け上がって奥へと消えていった。
一人、狡噛と共に残された征陸は「くそ!」と言葉を吐き捨てた。