第9章 狩りに最適な日
「……駄目だな、地下室は水没してる。臭いからして、間違いなく廃液混じりの汚染水だ。あんなの生身で浴びたら無事じゃ済まんぞ」
征陸が、地下に繋がる階段を見下ろしながら呟いた。
———天気がいい午後の時間に、一係の刑事達は廃棄区画の中にいた。古びたカントリーサインには『新橋』と表記がある。そもそも、なぜ彼らがこの場所に居るのか。時を1日と12時間前に遡る。
———日付が24に変わった深夜3時20分。
ここ数日の忙しい公安局の仕事で監視官・常守朱は自宅のベッドで熟睡していた。しかし、彼女の睡眠は携帯のバイブレーションの音で妨げられてしまった。
常守がベッドから転び落ちながらもベッドボードに置いてあった携帯に手を取ると何やらメールが来ていた。その、差出人は常守の親友である船原ゆき。内容は、『公安局の事件に関係ある大事な話がある。直接見てもらうのが一番早いから、明日午後3時にそこで待ってる』とのこと———。
常守は翌日、狡噛と共に船原から送られてきた地図の所へと向かった。
元々非番であった狡噛に罪悪感を感じながらも常守は彼と一緒に廃棄区画内へと車を進めた。実家にも帰っていない船原ゆきに「普段からこんな場所をうろつく友達なのか?」と問う狡噛は「間違いなく罠」だと現場に足を下ろして言った。
狙われているんじゃないのか、と言われた常守は恨みを買うような覚えはあるわけないと話した(そのあとそんな彼女に刑事の自覚がないんじゃないかと尋ねた狡噛だった)。
狡噛が様子を見てくると武装し、旧地下鉄の入り口の階段を降りていった。常守は、車内で狡噛のナビゲーションをしていたのだが、事件はそこで起きた。