第29章 それが選んだ答え(extra2終)
銀の食器は、毒が入ったときに変色して混入に気付くため。
子どもが毒味係につくのは、大人には耐えられても、子どもには耐えられない毒が混入されて、それをカリムが食べることがないようにするため。
最新のセキュリティシステムを導入したり、カリムの身の回りの世話をする使用人が限られているのは、仇なす人を近づかせないため。
それでも毒は盛られ、あるときは誘拐された。
怖い。
近しい人が苦しみ、死ぬかもしれない恐怖。
次は自分が毒を食むかもしれないという怯え。
誰が仇なす者なのか、協力者なのかわからない故の猜疑心。
……逃げたい。
ここから逃げたい。
それから、こうも思う。
彼らとこれからも一緒にいたいから、
カリムを、ジャミルを守りたい。
そのために私にできることは何?
「私、『密かな夢』をもっと使いこなしたいと思って、今の実習に臨んでいるの。契約書を交わすことで、相手の時間や場所を限定して観れるようにできないか。または、人ではなく物と契約して、いつでもその物のまわりを観れるようにならないか。主にその2つの可能性を探っていたのよ」
なんだか恥ずかしくて、以前は詳しく話せなかったんだけどね、はは……。と笑ってみるも、ジャミルは表情を崩すことなく先を促
してくる。
「前者ができれば、もっと沢山の人と契約できて役立てられる場面が増えるかもしれない。後者ができれば、いつでも決めた場所が観れるようになる」
防犯カメラはもちろんあるけど、そのまわりの死角も細かく確認できるし、ハッキングだってされない。
「時間を無駄にしたくなくて、年末は帰らなかったの。今回は帰るように、って実習先から言われてしまったけどね。……少しだけど、手応えを感じてるの」
ナイトレイブンカレッジには色々な人がいた。毒殺も誘拐もない世界は、存外近いところにあった。
私がそこへ行くことも可能だ。
できると思う。
そう。
私はどちらにも行ける。私は選べる。
フラットな視点に立って思ったのは、
『何かしたいことがあるんでしょ?』
ラギーの言葉は私の背中を押してくれた。
私はとても未熟な人間だけど。
これからも矛盾する2つの心を、持ったままだけど。
逃げたい。
本当だ。でも今はそれ以上に
力になりたい。
これからもきっと大切に持ち続けていく。
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