第73章 時の混じる場所
__ぴちょん
薄暗い洞窟に水の跳ねる音が響く。
「ここが噂の洞窟ねェ…」
白く吐き出される息を追うようにサッチは辺りを見渡した。
そこはまるで鏡の迷宮。
あちこちで光を反射する壁は天然とは思えないほど正確に彼らの姿を映し出していた。
「すごく綺麗……」
「だけどほんとにこの洞窟のどこかに抜け道なんてあんのかよい」
「さァな。おれもあんときゃよく調べずに出ちまったし…」
マルコの問いにエースが答える。
白ひげ海賊団が偶然立ち寄った島はエースがスペード海賊団時代に宝を求めて訪れた場所だと言う。
その当時は断念したものの、もしかしたらまだ誰も見つけていないかもしれない、と見物がてら数人で見に来ていた。
「ま、とりあえず探してみよっか。無かったら無かったでその時はその時」
ハルタが未知の洞窟に舌なめずりする。
「とりあえず何か目ぼしい物見つけたら報告しろい。どれくらい深いか分からねェからな。迷うなよい」
マルコの号令で一斉に散らばる。
水琴もあまり深くまで行かないよう慎重に歩を進めた。
しかし、と水琴は思わず感嘆の息を吐く。
「ほんとすごい…まるで宇宙に立ってるみたい」
僅かな光を乱反射して光る壁は水琴の姿をあちこちに映し出す。
もうどこが行き止まりでどこが通路か水琴にもよく分からない。
「色々な“時”が混じり合ってるって伝説も信じちゃいそう…」
ここへ来る前に近くの村で聞いた伝説を思い出す。
昔の人はこの一つの存在を複数映し出す神秘的な場所に、遠い過去や未来を見たのだろうか。