第11章 三度目のあの公園 《主人公目線》
わたしと津軽さんは、あの思い出の公園を、手を繋いで歩いている。
わたし達は、【愛の下僕会】の教祖新垣と元財務大臣の木内の逮捕に成功した。
百瀬さんも、現財務大臣の木内を狙った、大掛かりな新幹線乗り場での、毒ガステロを阻止した。
あの時、津軽さんが わたしを助けに来てくれなかったら、わたしは、きっと死んでいる。
わたしが、あの総務のパソコンの前で、暗記していた『681843』を入力していれば、あのパソコンに仕掛けられた、小型爆弾が、爆発するところだったのだ。
「瑠璃子!!入力するな!!!」
津軽さんが、息を切らせて現れた時には、番号を後1桁入れる寸前だった。
津軽さんは、わたしを抱きしめると、わたしの唇を塞いだ。
津軽さんの唇からは、津軽さんの汗の味がした。
津軽さんは、わたしから唇を離すと、こう言った。
「瑠璃子、生きてて良かった」
そして、もう一度、わたしをきつく抱きしめ、二人であの修行施設を脱出したのだ。
わたしが、あの暗証番号を入力していたら、わたしの命もだけれども、新幹線乗り場でも、毒ガスのテロが起きている筈だった。
わたしと、百瀬さんの潜入捜査は、仕組まれたものだったのだ。
情報提供者は、修行施設内に監禁されていた。
新垣と木内は、高校時代同じ野球部だった。
木内は、T高校の野球部の主将だった。後輩の新垣と共に、T高校初の甲子園に出場している。
最初の対戦相手が、現財務大臣の大野のS校だった。
結果、新垣達のT高校は、12対1で惨敗している。
高校の野球部の繋がりは固く、彼らは、何回も高校野球部の同窓会で顔を合わせていた。
まだ、新垣が【愛の下僕会】の教祖を始めた頃は、小さなIT企業の会社の経営者もしており、危険視される様な宗教団体では無かった。
しかし、現財務大臣の大野が顧問のIT企業に汚い手を使って、新垣の会社は、倒産まで追い込まれた。
それを聞いた、財務大臣をしていた木内は、新垣に多額の資金を融通していた。
二人は、高校の野球部で惨敗した時のS校の主将だった大野に、また、してやられた事に、二人で涙したと、二人の逮捕後の供述で分かっている。
そして、新垣の【愛の下僕会】は、木内の資金の融通で、急速に発展し、信者から、多額のお布施を要求する教団へと成長した。
多額のお布施の多くを、新垣は、木内の政治資金へと流していた。