第9章 潜入捜査〈主人公目線〉
わたしと百瀬さんの潜入捜査の日時が決まった。
来週の月曜日だった。
今日が、水曜日なので、後、五日後にわたしと百瀬さんの潜入捜査が始まる。
わたしは、警察庁の屋上に来ていた。
8月末の空は、まだ夏の様相で広がっている。
白い大きい雲が、ゆっくり二つに分かれて離れて行く。'
屋上から、見えるこの街のどこで、テロが起こるのか......?
わたしが、新垣の捜査を手っ取り早く片付ける為に、ハニトラを仕掛ける事が一番良い方法なのか?
新垣は、側近の女性信者と深い関係を持っているのは確かだと思う。
ハニトラを仮に仕掛けたとして、新垣が、そうやすやすと、わたしに、殺害指示の情報など与えるだろうか?
それに、【愛の下僕会】の殆どの信者は、この宗教団体が殺人を起こしている事になど、気付いてないだろう。
あのにこやかに笑っていた女性信者達が知ってるとは思えない。
殺人現場に残された足跡から、殺人の実行犯は、三人だと割り出されていた。
靴跡から、別々のメーカーのスニーカーを履いていた事も分かっていた。
信者達は、教団から、支給された靴を履いていたが、それとは違っている。
逃走用の車両は、掴めていない。
【愛の下僕会】の施設の見取り図は、頭に入っている。
でも、多くの部屋があるこの施設で特定出来ているのは、
信者達の食堂、
信者達の修行部屋
信者用の、シャワー室、トイレ。
教祖用と思われる、風呂場。トイレ。
くらいだった。
情報提供者の女性も、修行施設の中にいる。
情報提供者には、わたし達の潜入は、告げられて居ない。
潜入捜査するには、情報が少な過ぎる。
この情報だけで、潜入捜査に踏み切って、十分な捜査など、出来ると思えない。
もっと、出来るだけ多くの【愛の下僕会】の情報を洗い出すべきだ。
見落とした情報もあるかも知れない。
わたしは、屋上を後にして、【愛の下僕会】の情報を集める為に、
公安の資料室へ向かった。
資料室へ行くと、津軽さんがいた。
津軽さんも【愛の下僕会】の資料を探しているようだった。
わたしを見ると、津軽さんが言った。
「【愛の下僕会】に入信していた、情報提供者との連絡が途絶えた」
と言った。
「香月、この資料を全部、俺のデスクへ持って行ってくれ」
津軽さんは、足元に積み上げられた資料の山をちらりと見て言った。