第8章 初めての夜 〜回想〜 〈津軽目線〉
俺は、心から ウサの弁当が美味しかった。
「津軽さんに褒められるのは、微妙な感じです」
ウサが笑いながら言った。
ウサは、無理をして何時も通りの言い草で言ったのだと分かった。
やっぱりウサを手離したくないと思った。
ウサが愛しくて、ウサの鼻を摘んで、俺も何時もの言い方で笑いながら、答えた。
「反・抗・期・う・さ・ち・ゃ・ん」
「いひゃいです!」
本当にウサを手放したくなかった。
でも、それは、俺の無理な願いだと分かっていた。
弁当を食べ終わって、ウサが片付け終わると、
俺は、ウサが愛しくてウサの頬を優しく撫でて言った。
「ウサちゃん、俺の傍にもっと寄って」
ウサは、大人しく俺の傍に座った。
俺は、ウサの頬を両手で優しく挟んで、ウサを俺の方に顔を向けさせた。
「最後のキスしていい?」
俺がそう聞くと、ウサは恥じらいながらも、頷いて目を瞑った。
ウサの赤い柔らかな唇に、何度か啄む様にキスをした。
俺は、ウサが愛しくてぎゅっと抱き締めずには、いられなかった。
「瑠璃子、好きだよ。本当に」
心の底からそう思って言った。
そして、また、俺はウサの頬を両手で挟んで、何度も何度も啄む様な優しいキスをした。キスが深くならないように気をつけて。
そして、俺は大好きな、ウサの唇をしばらく、指先でなぞった。
もうこれが、最後なのだと自分に言い聞かせながら。
そして、最後にウサの唇に出来るだけ優しくキスをした。
俺は、直ぐに立ち上がりたくなくて、
ウサが俺の為に、可愛いらしくカールした髪の解れを直してやった。ウサは、俯いてじっとしていた。
「瑠璃子凄く可愛いよ」
俺の本音に、ウサは寂しそうに笑って俺を見た。
俺は、立ち上がって、ウサに右手を出すと、ウサは、俺の手を取った。俺達は、今の俺達には、不釣り合いな程に、太陽に向かって
美しく咲き乱れる花の中を散歩した。
ウサは、ふいに俺を見上げて言った。
何時ものウサらしい元気な声で。
「津軽さん、わたしもう大丈夫です!津軽さん帰りましょう!
ありがとうございました!また、月曜日から、津軽班で頑張りますので、よろしくお願いします!」
俺は、これ以上居ても、手放したくない気持ちが大きくなるばかりだと思って、
「分かった」
とだけ短い返事をした。
駐車場に着くと、俺もウサも黙って車に乗った。