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手のひらの虹 【恋人は公安刑事】津軽高臣編

第8章 初めての夜 〜回想〜 〈津軽目線〉


俺は、車内に流れる重い空気を少しでも変えようと、ラジオのチューナーを合わせた。
別に何でも良かった。

古い昔の曲が流れていた。
俺の耳に飛び込んで来た歌の歌詞。

〜想い出はいつだって美し過ぎて、もう恋などしたくない〜

タイミングの良過ぎる歌詞が俺の気持ちを益々暗くした。
ウサに自分の気持ちを伝えたくても、伝えられない。
俺は、俺の好きな曲をかけた。

〜僕は、君を絶対忘れない〜

この歌詞が、俺の気持ちだとウサは気付いてくれるだろうか?
ウサは、この歌詞を聞いて泣いていた。
俺には、見えない様に、顔を背けて、泣いていた。

ああ、ウサはこんなに俺を好きだったんだ。
ウサの涙が、俺の心に最後のデートで優しくする余裕を与えてくれた。ウサが愛しかった。
こんなにも、俺との別れに波を零すウサが心底愛しかった。

(ウサ、キミを愛しているよ)

俺は、公園に着くと、ウサが俺の為に一生懸命作ってくれた弁当の入ったバックを傾けない様に気をつけて バックシートから取ると左手に持った。

そして、ウサに優しく手を伸ばした。
ウサは一瞬戸惑いを見せた後、俺の右手を取った。
可愛い女だと思った。
別れたいと言った俺に対して、文句の一つも言おうとしないウサ。


(瑠璃子が愛しい)


ウサが作ってくれた弁当を食べる為の、木陰のベンチを見つけた。
ウサが、ベンチに座る前に俺のハンカチを敷いてやると、ウサが複雑そうな寂しい顔をした。

ベンチに腰掛けるとウサは、俺から、弁当の入ったバックを受け取り、中から、お弁当とお茶の入った魔法瓶を、俺とウサの間に丁寧に置いてくれた。
少しだけ、俺の方に弁当を寄せたウサの心遣いにも、ウサの優しさが溢れていた。
そして、可愛いらしい花柄のピンクの紙皿と割り箸を俺に、そっと手渡してくれた。
紙皿にさえ、可愛いらしい物を選んでいたウサに胸が傷んだ。

「ありがとう。ウサちゃん」

俺が、そう言うとウサは、寂しそうな笑顔で微笑んだ。

俺は、弁当を一つ一つ、味わって食べた。
不思議とマイスパイスをかけてないにも関わらず、ウサの弁当は、美味しかった。

食べ終わってウサに言った。

「ウサちゃん、君のお弁当美味しいよ。七味唐辛子もタバスコも要らない。ウサちゃんが一生懸命作ってくれたからだろうね」

心の底からそう思って。
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