第8章 初めての夜 〜回想〜 〈津軽目線〉
俺は、車を走らせて最短の道を選んでマンションの前まで来るとウサを降ろした。
部屋には、帰るのが嫌で、公安課へ向かった。
公安課のデスクにドサッと座った。
昨日からの疲労で身体は、フラフラなのに、頭だけ、冴えざえとしていた。
月曜日から 俺は、どんな態度でウサと向き合えば良いのだろう。
ウサを津軽班から、手放す事に付いて考えた。
公安学校時代の教官の班なら、きっと俺よりも、ウサの良さを理解して、ウサも伸び伸び仕事が出来るのではないかと思った。
いや、俺はそう確信した。
流石に今回は、ウサも俺を見守りたいなどとは言わないだろう。
じゃあ、俺はどうなんだ?
ウサが居なくて仕事が出来るのか?
俺の班にモモが居てウサがいることに、俺はどっぷり浸かり過ぎていた。
公安刑事は因果な仕事だと思った。
今まで、そんな考えはなかった様に思う。
銀さんの為だけに突っ走ってここまで来れた。
ウサは、俺を随分と変えてしまったのだと今更ながら思った。
「くっそ!!」
デスクを思いっきり、蹴り上げた。
危うくデスクのノートパソコンがひっくり返る程。
デスクに俺は、足を投げ出して考えた。
俺のこれから、ウサのこれからを。
俺は、いつか殺されなければいけない人間なのだ。
その時、ウサは、どう思ってくれるのだろう。
もう、新しい恋人の元で元気にしているだろう。
あぁ、俺の方がウサを忘れられないのだと気付いた。
ウサは、ああいってくれたけれども、俺の方が絶対ウサを忘れられないだろう。
そんな事を考えている時だった。
公安課ルームの扉が開く音がして、そちらを向くとウサが立っていた。
まさかと思った。
「津軽さん!」
と言うと、ウサは、俺に駆け寄って来た。
俺は、嬉しかった癖に、ウサに冷たく低い声で言い放った。
「ウサちゃん、何しに来た?」
「津軽さん!わたし津軽さんを諦めたくないです!
こんな形で、津軽さんとお別れするのは嫌です!」
と、俺に真剣な強い目の色で言った。
ウサは、本当に俺と別れるのが嫌だったのだ。
俺は、心の中で、まだ俺を好きなウサに、安堵していたのに、ウサを試す様にこう言った。
「じゃあ、何故俺が、終わらせようって言ったか理由分かって言ってる?」