第6章 思い出の公園 〈主人公目線〉
わたしは、零れ落ちそうな涙を必死で堪えていた。
思えば、こんな警察庁中の女の子の憧れの津軽さんが、わたしの事を好きになってくれる事の方が、有り得ない事だったと思う。
短い素敵な夢を見てると思えば良い。
最初で最後の津軽さんとのデートを素敵な思い出の1ページにしよう。わたしも、これ以上津軽さんを苦しめたくない。
わたし達は、ずっと車の中で押し黙っていた。
車内で、津軽さんがかけていたラジオから、歌が聞こえて来た。
〜想い出はいつだって美し過ぎて、もう恋などしたくない〜
タイムリーな歌詞に、なんだか最初から、津軽さんとは、別れる他ない運命だったと言われているように感じた。
津軽さんも、同じ様に感じたのだろうか?
津軽さんは、優しいバラードの曲をかけた。
〜僕は、君を絶対忘れない〜
その歌詞を聞いた時には、この曲を津軽さんがわざと選んだのだと分かった。
涙が溢れて来るのを、もう制御出来ない,。
わたしの目から、ポロポロと涙が、頬をつたった。
(津軽さん、公園に着くまで、許してください。公園では、明るいわたしでいますので)
津軽さんは、わたしが泣いている気配に気付いている。
だけども、わたしの方を向く事もなく、黙って車を走らせていた。
公園に着いた頃には、やっと涙は止まっていた。
津軽さんが言った。
「ウサちゃん、やっと着いたね。君の好きな花が咲いているといいね」
津軽さんは、後部座席に置いてあったお弁当の入ったバックを大事そうに抱えると、それを左手に持ち直した。
そして、初めて見るような、どこまでも、優しい顔をして、わたしに右手を差し出した。
わたしが津軽さんの手を取ると、津軽さんは黙って歩き出した。
津軽さんの指先が、わたしの手の甲を優しく撫でている。
津軽さんは、この最初で最後のデートをわたしの為に素敵な思い出にしようとしてくれてる。
「ウサちゃん、下は、結構暑かったけども、この公園って、けっこう高い山の中腹にあるから涼しいね。ウサちゃんが焼きウサちゃんにならずに済んで良かったよ」
そう言って、津軽さんは、わたしの方をむくと、わたしの鼻をキュッと摘んだ。
優しくて切ない目の色の津軽さん。
津軽さんのこんな顔は多分もう見る事はない。
わたしは、 出来るだけ明るい笑顔で、津軽さんを見つめた。
(わたしも津軽さんを絶対忘れません)