第6章 思い出の公園 〈主人公目線〉
運転席でシートを倒して、向こう側を向いてる津軽さんは、寝ていない。
絶対に。
わたしだって、公安刑事なんだから、そのくらいの観察力はある。
わたしの言葉のどこがいけなかったんだろう?
ハニトラの達人で警察庁中の女の子とデートしたって言っただけ。
その時、ふいに、警察庁の廊下を歩いていた時に後ろから聞いた女の子達の会話を思い出した。
『「え!津軽さんって彼女出来たんだ~残念〜」
「まあ、あんだけイケメンじゃあ女もほっとかないよね」
「凄い美人でモデルの様な女性と腕組んで、Aホテルに入って行くの交通課の子が何回も見てるんだって」
「そうなんだ〜」』
そうだ。津軽さんは Aホテルに女性と度々入っている。
ハニトラにしても、わたしはキスくらいまでって勝手に思ってた。
でも、捜査の為に、本当に深い関係を避けられない事もある事を
あまりにも、漠然と、あまりにも自分に良いように考えていた事に気付いた。
多分、わたしの推測は、当たっている。
昨日、津軽さんは、Aホテルで、例の女性と深い関係を持ったのだ。
そして、津軽さんもその事で、捜査線上では、あるものの、
苦しんでいる。
そう考えて見ると、今日の津軽さんの行動の不自然さを納得出来る。
不思議な事に、津軽さんが女性と深い関係になった事のショックよりも、今の津軽さんをどうすれば、元の軽口ばかりの津軽さんに戻ってくれるかの方に考えがいく。
津軽さんは、わたしに言えない事で自分を、物凄く責めている筈。
いっその事、わたしから、津軽さんが捜査中の行いをいちいち気にしてないって言えばいいのだろうか?
でも、わたしが先に言う事がもっと津軽さんを苦しめる結果になるかもしれない。
ふいに、津軽さんがシートを起こすと、わたしの方を向いて言った。
「ウサちゃん、止めよう。俺たちの関係」
津軽さんの口から出た言葉は、わたしの脳天を酷く殴った。
目眩を感じるくらい息が止まる。
津軽さんがそう決めたのであれば、もうわたしはそれに従うしかない。
「わたしは、津軽さんが、わたしとの関係を終わらせてたとしても、ずっと津軽さんを思っていると思います」
涙が溢れそうになる。
津軽さんはしばらく、俯いて考えてから言った。
「じゃあ、今日で終わりにしよう。
今日が、最初で最後の俺とウサちゃんのデートにしよう」