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手のひらの虹 【恋人は公安刑事】津軽高臣編

第5章 思い出の公園へ〈主人公目線・津軽目線〉


~主人公目線〜

津軽さんに振り回され通しだよ。
わたしは、今は恋人繋ぎで手を繋いだ津軽さんの横を歩きながら思った。

津軽さんとの両思いになってのキス、初めてのキスがマンションの通路か.....。

津軽さんってマンションの通路なんかでキスをする様な人だったかな?
いや、今までは、かなりロマンチックな演出を心掛けてくれるのが津軽さんだった。
デートに遅れたからって、わたしのワンピースに合ったお花のブーケをプレゼントしてくれたり、素敵な夜景が展望出来るテラスで、デザートを食べさせてくれたり。

そして、あのお花畑の公園に連れて行ってくれたり、何時もの津軽さんは、いかにも、警察庁全部の女の子とデートをした、モテモテのイケメンの余裕があって、スマートに女の子に対応出来る人だった。

まあ、外国の映画なんかだと、通路で恋人同士がキスをしたりしても、可笑しくは感じない。

今日の津軽さんは、何時もの津軽さんじゃあない。

絶対に。

横を歩く津軽さんの疲労が滲む顔をじっと見てしまい、それに気付いた津軽さんが言った。

「俺に、見とれるのは、当たり前だけども、ウサちゃん そこ段差あるから気を付けて」

「あっ......ぎゃっ!」

わたしは、盛大に段差につんのめて転びそうになる。
津軽さんが、サッとわたしのお腹に腕を回してくれたお陰で転ばずに済んだ。

「すみません!」

「はいはい。公園に着く前に、怪我されてもね。どうせなら、公園で飛び回ってからにしたら?ウサギらしく」

今の津軽さんは何時もの軽口ばかり叩く津軽さんに戻っている。
でも、わたしにキスをした津軽さんは、明らかに何時もの津軽さんではなかった。

ああ、でも、そういえば 初めての津軽さんとのキスは観覧車の中でわたしに解毒剤を飲み込ませる為の苦いキスだった。
でも、あの時のキスでさえ、津軽さんは、わたしに解毒剤が回って命に危険がないと分かると、直ぐに何時もの津軽さんに戻っていた。

わたしを自分の膝の上に横抱きして離さなかった事以外は、津軽さんは津軽さんだった。

わたしの部屋に入ってお弁当を覗いて、いきなりわたしを抱き締めた津軽さん、そして、通路で頬にキスをした津軽さん。

あそこまでは、まあ、何時もの範疇の津軽さんだったと思う。

そうだ。何時もの津軽さんなら、マンションの通路なんかでキスは、絶対しない。
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