第2章 ~宮廷薬剤師見習い~
まぁナイフが王子の側近たちに気付かれないか会話中少しひやひやしたが。
「それにしてもお嬢さんもこの城に来るとは思わなかったな。あの林檎のような髪をしたお嬢さんに随分と入れ込んでいる様子だけど何かあるのかい?」
猫のような目がついっと上がってニヤリと笑うオビにすっと表情が抜けて睨む。先程お嬢さんと話し込んでいた時とは大違いな反応。面白い……。
オビを睨むその目は穏やかに微笑む姿とはまるで別人のよう。只人なら睨みつけられただけで背筋が凍るように感じるだろう。
なんだろうか。この違和感は……。
目の前のお嬢さんをじっと観察しているとふっと雰囲気が軽くなる。
「はぁーね、もういい?そろそろ部屋に戻って休みたいの。明日から仕事が山積みなんだから」
「おっと。悪いねー」
「そういうならさっさとどっか行きなさい。貴方、殿下の従者なんでしょ?ならちゃんと任務を果たしなさい」
足早に去っていくのを見送りながらオビはやれやれと立ち去った。
あのお嬢さん。やっぱり気になる。
同業者の方かと思ったけど、仕草が丁寧でお嬢さんのように町娘というには目上に対する線引きが完璧。商家の娘とか……?貴族は違うだろうな。
なーんか。ゼン王子と似てるとこあるんだよな。
ま、念のため探っておけば大丈夫か。
***
「アイツ、なんか余計に探ってきそう。こっちの目的が果たせるまでは大人しくしていた方が良さそうね。今、ゼン殿下に監視されると動きづらくなる。
まさか想定外だったわ。王城に第一王子が不在だなんて」
ため息をついて計画の練り直しを頭の中で続けた。
上手く行けば……きっと。
それまでは私は白雪と共に薬剤師を続けないと。
あの子は無条件に信頼してくれる分、利用している身からすると罪悪感が湧いてくる。
パラパラと薬草の本をめくって今日のことを思い返す。それでもこの国に来て良かったと思う。
師匠の故郷であるこの国でルーテミス先生を知る人がいる国で働けることを誇りに思う。
味方の少なかったわたしの側で友達や親のように振る舞っていてくれたことが私にとってどれだけ救いになったか。
これからこの国で一体どんなことが待ち受けているんだろう。あの子がいてくれるならきっと退屈はさせてくれないんだろうな。
くすくすと笑う声が部屋に響き渡った。