第16章 ただいま
左手の甲にキスをして、信長様は部屋を出ていった。
『傷、見るよ。診察もするから。』
「…ん。」
『痛かったり、何でも言って。それか手を動かして。』
「…ん。」
眠たくなかった。
頭の中だけは、すごくクリアで
でも、体が固いような重たい感じで
声も身振りも出来ない。
ずっと長く寝てたんだと
その時、ようやくわかった。
さらしの触感と、ひんやりとした軟膏が当たるのがわかった。
『終わった。』
「…が、と。」
『典医だから、あんたの。』
そうだったね。
私だけの。
『心配かけずぎ。』
「…め、ん。」
『早く良くなって薬草集め、手伝ってよね。』
うん、わかった。
私はふふっと、微笑んだ。
『起きてるか? 大丈夫か?』
信長様が帰ってきた。
そしてすぐに、私の隣に布団を敷き出した。
『家康。診察は?』
『はい、終わりました。異常ありません。』
『では、下がれ。』
『…信長様は?』
『ここで寝る。久しぶりの早駆けは堪えた。貴様も休め。何かあれば呼ぶ。』
早駆け?
出掛けてたの?
『わかりました。…護衛に佐助をつけます。』
護衛に佐助くん?
『…、貴様にはゆっくり教えてやる。今は休め。』
信長様は、自身で敷いた布団に横になると、私の手を握った。
信長様の熱が私に移るような気がした。
家康が立ち上がる音がして、襖が閉まった音がした。
暖かくて
気持ちがよくて
信長様の温もりに包まれて
知らぬ間に、眠ってしまった。