第13章 暁のおむかえ
ピチョン
…ピチョン
なんだろう。
水の音が聞こえる。
蛇口、開けっ放しかな。
蛇口? …なんだっけ、それ。
今、立ってるのかな。寝てるのかな。
なんだろう。
やらなきゃいけないような、
なにかしなきゃいけないような…
「…うっ、ん。」
重い瞼をゆっくりと開ける。
眩しい光が急に入って、直ぐにまた目を閉じた。
どこだろう、ここ。
また、ゆっくりと目を開けてみる。
夕焼けと夜の間。
…いや、夕闇に近いのかな。
目の前には何もなく、ずっと広がる地平線。
ピチョン。
足元に目を向けると、踝ほどが水に浸かっていた。
生温い、何処かから流れるような勢いが少しだけある。
「なに、ここ?」
歩き出そうとした。
けれど、体が重たくて、足が水に取られて動かない。
右肩が熱くて、痛くて、手が痺れる。
なんだっけ?
右肩が熱くて、痛い理由。
考えようとするのに
思考が止まっているようで
靄がかかっているようで
「だれか、…いないの? ねぇ、…っ。」
誰だっけ。
誰かいた。大切な、…誰か。
足元の水が何だかどんどん冷たくて、
歩いてみることにした。
重たい粘りつくような水を掻き分ける。
息が切れる。
進んでるのか
止まっているのか
見渡せど夕焼けと夕闇の間。
いや、…夕闇が濃くなったかな。
「誰かっ、ねぇ、いないの?
ねぇ、のっ…」
の?
の…、なんだっけ?
なんだか疲れた。
右肩が熱くて痛くて、重たくて。
体全体が石みたい。
座りたいな。眠りたいな。
少しだけ膝を曲げてみる。
バシャッ
え?
…水が、増えてる?
踝くらいだったよね。
今、膝下だ。
なんで?
…何でもいっか。
誰かが来るまで、休んでよう。
でも、なんだっけ?
何か大切な事。
の… なんだっけ?
私、ここに来るまで何してたんだっけ?
ここ、…ってなんだっけ?
急に背中がぞわりとする。
目を開ける。
急に頭の中が晴れていくようで。
思い出さなきゃ
あの人を
あの人達を
誰だっけ。
でも、知ってる。
冷たい氷のようで
熱い炎のような
照りつける強い陽射しのような
優しく包む夜風のような
あの人を