第1章 憧れと現実
千秋の言葉にカッと頭に血が上る。
「幼馴染みだからって言って良いことと悪いことがあるでしょ!」
「幼馴染みだから敢えて言ってやってんの。
で、どうすんの」
「住ませて貰うけど!」
「結局住むんじゃん。あっれ、そんな態度取って良いのかなー?
伊織チャン」
「ちゃん付けキモイ」
「あ?」
「ごめんなさい……住ませてください」
「しょうがねぇな」
ポンポンと頭を撫でられる。
乱暴な態度や言葉遣いとは反対に、その手つきは優しく壊れ物を扱うようだ。
何よ、調子狂うじゃない。
「じゃあ今後の話をしとこうか。
生活のことだし早めに決めといて損はないだろ」
「そ、そうね」
千秋とこれからのことを決めていく。
大抵は千秋の提案で私はそれに頷くのみ。
家賃の話、家事分担の話、仕事の話。
滞りなく進んでいく。
やっぱり気心が知れてると楽だ。
「とまぁ大体はこんなとこか。
あとはまぁ、あれだな」
「なぁに?」
「初期費用」
「え……初期、ひよう?」
「そ。初期費用。
借りるのも家賃だけで借りれる訳じゃねぇの。
保険代とかも含めて初期費用それなりに掛かってんの。
一緒に住むなら半分負担してくれるよな?」
「えっと……」
やばい。
初期費用なんて全然考えてなかった。
でもここで払えないなんて言ったら怒るよね。
この話もなかったことにってなっちゃうよね。
あー、もう。私の馬鹿馬鹿。
なんて無計画なの。
「え、無理なの?」
「ハイ……」
「ま、だろうと思ってたけどな」
「お願い!もう千秋しか頼るところがないの。
なんでもするから一緒に住ませて」
手を顔の前で合わせて、ギュッと目を瞑る。
もう千秋にしか頼めないのだ。
格安マンション探しても初期費用でカツカツ状態だ。
「なんでも?」
ギラリと千秋の目が怪しく光った気がした。
でも背に腹は変えられない。
どんなに無茶な内容でも答えなくちゃ。
「うん、なんでも。なんでもします!
1ヶ月家事全部でも、焼肉奢るでも、ほんとなんでも!
だからお願い。一緒に住ませてください」
「ふぅん……分かった」
「ほんと?やった!ありがと、千秋ダイスキ!」
「はいはい」