第11章 拒絶
未来の用事が済む頃を見計らったように、空を覆う薄黒い雨雲から雨が降り出した
そして、その雫は城への道を歩いている未来の頬へと落ちていった
「あ…降ってきちゃいましたね。すみません…、私がモタモタしてたから…」
「このまま城に戻ってもずぶ濡れだな。仕方ねェ、そこでちょっと雨宿りでもしてくか」
目にとまったのは、こじんまりとした神社の軒下だった
雨足が弱くのを待つことにしたが、どんどん本降りになってきた
「しばらく止みそうもねェなァ」
軒下に2人並んで立ち、降り続ける雨を眺めながら元就は聞いた
「雨って嫌いじゃないです。傘もささずに雨に濡れたら、悲しいこととかも一緒に流してくれそうな…そんな時ってないですか?」
「ねェな」
「あ、そうですか…。ですよね…」
「雨に良い思い出なんかねェな、昔から…」
「え…?」
ぽつりと呟いた元就の声は雨音にかき消されて、よく聞こえなかった
「これも濡れて気持ち悪りィ」
元就は雨に濡れた手袋の片手を外し、素手があらわになった
その手は骨張っていて、指は長く綺麗な手に未来は少し見惚れてしまった
「雨なんざ、ろくな事ねェぜ」
少し不機嫌になる元就
未来は、横に立つ元就の肩が雨に濡れているのに気づき、元就の腕を引こうと未来は手を伸ばした
「もっとこっちに来ないと濡れちゃいますよ」
「………っ⁉︎」
バシッーーー
未来の伸ばした手を勢いよく振り払った元就は、どこか怯えるような表情で目を張り未来へ振り向いた
勢いよく振り払われた手に元就の爪が擦り、未来の掌が浅く切れてしまったが、そんなことよりもいつもと様子の違う元就に驚いて声が出なかった
「あの……」
「俺に触んじゃねェ……ッ」
「………ご…、ごめんなさい…」
今まで聞いたことのない凄みのある元就の拒絶する言葉に声を詰まらせた
一瞬にして元就の顔は真っ青になり、呼吸が荒くなって肩を上下に揺らし始めた
そしてそのまま背を向け、未来から逃げるように元就は雨の中去っていった
「………っ」
その場から動けなくなってしまった未来は、しばらく立ち尽くしていた