第15章 気づき始める気持ち
元就は未来の部屋の前まで来ると、中から微かにすすり泣く声が聞こえてくる
自分で泣かせておいて、その表情はどこか暗い
(柄にもねェ…)
未来へ言い放った言葉に嘘はない
なのに、傷ついたという顔、今声を殺して泣く未来にどうしてか胸が締めつけられる
極めつけは、広間での政宗や家康とのやり取りだ
(どいつもこいつも、べたべた触りやがって…。あいつも簡単に触らせんじゃねェよ)
「はっ、俺が言える立場じゃねェか…」
自身の掌の眺めながら、今朝方のことを思い返した
未来の滑らかな髪や細い腕、熱を帯びた頬
触れることができた…というより、もっと触れたいとさえ思った
広良が声をかけなかったらどうなっていたのか…
(余計なこと考えてんじゃねェよ。俺にはやるべきことがあるだろ)
未来へ募るドロドロした欲情が、元就の中で渦を巻くが、それごと吐き出すようにため息をついた
「ご機嫌斜めみたいだね」
少し離れたところから声をかけてきたのは、信長の小姓 森蘭丸だった
「はっ、俺とこんなところいるの見られても平気なのかよ」
不適に口角をあげる元就に対して、蘭丸は苛立ちを孕んだ瞳をしている
「未来様をこれ以上傷つけたら、みんな黙っていないから。覚悟しておくんだね」
「そうみてェだな。信長以外にも名だたる武将たちをたらしこむなんざ、一体あの女は何者だ」
「さあてね、自分で確かめてみなよ。ま、未来様を泣かせるようなやつには、彼女の魅力には気づけないだろうね。残念だったね、"松寿丸殿"」
嫌味がこもる言葉を告げると、蘭丸は元就に背を向け去っていった
「…そうだな。気づきたくなかったぜ…」
(こんな邪魔な思いも、あいつの温もりも何もかも…)
「俺には必要ねェよ…」
掌に視線を落とすと、気の迷いを振り払うように冷たくなった指先を強く握りしめた