第14章 二人の距離
「元就様、失礼致します」
「………」
「………っ⁉︎」
襖越しに廊下から聞こえる広良の声に驚き反応した未来は、目を開け、身体を後ろに引き、元就から離れた
そんな未来の行動にあからさまに不機嫌になる元就は、広良に返事をした
「…チッ。なんだ」
「朝早くに申し訳ございません。急ぎお耳に入れたいことが…」
「はあ…。分かった、今行く。外で待ってろ」
「はっ」
短く返事をすると、広良の廊下を歩く足音が部屋から離れていった
広良から声がかからなければ、元就とどうなっていたのだろうか
そう冷静に考えると恥ずかしくなり、元就から視線を逸らし、宙を彷徨う未来の視線を元就は強引にまた絡めとった
「逃げるなって、言っただろ?」
後ろに下がった未来との距離を元就はグッと詰め、未来を壁際まで追い詰めた
「も…元就様…。早く行かないと広良様がお待ちですよ…」
「あいつなら待たせておけばいいだろ?」
「ダメですよ…そんなの」
やんわりと元就の胸を押し返すが、元就はビクともしない
逆に元就にその腕を捕らえられてしまい、痣の残る手首に唇を落とした
「ん……っ」
「まだ痛むのか?」
「そうじゃなくて…」
「ああ、そうか。未来は感じやすいんだったな」
あえて未来のことを名前で呼び、未来の反応を楽しんでいる
でもその声も、腕を掴み唇を寄せる動作も、唇を離し視線だけ未来へ向ける上目遣いも、釘付けになるほどだ
(あ…許嫁の振りで堺のお茶屋さんに行った時のこと言ってるんだ…)
そんな時のことを覚えているんだと、未来は嬉しいと素直に思ってしまった
潤う瞳で元就を見つめると、未来の腕を掴んでいた手が離れていった
「仕方ねェ、今日はここまでにしといてやるよ。続きはまた今度な」
(…手、離れていっちゃった…)
元就の温もりが離れていってしまったことを、無性に寂しく思った
元就は立ち上がり襖を開けた
「まだ明け方だ。病み上がりはまだ寝ておけ」
スーー……パタン