第1章 *声のボリュームは抑え気味に。【セベク・ジグボルト】
「せ、べく…?」
「寮まで送るからそこで待っててくれ」
そう言い彼は一度部屋に戻り、お風呂上がりの薄着だったため服を上に着てまたすぐに出てきた。
そしてそのまま私と目を合わせず「行くぞ人間」とだけ言い私の前を歩いた。
「…」
沈黙が続くことなんて今まであっただろうか。
わりとセベクはお喋りなところがあるため、いつも何かしら話している気がしていたのだけど。
「…怪我は大丈夫か」
その沈黙を最初に破ったのは彼だった。
「あ、うん!おかげさまで。ありがと」
「…僕は当然のことをしただけだからな」
そう言ってまた歩き出す。
あれからまだ一度も目があっていない。
目を合わせてくれない彼は一体何を考えているのだろう。
隣には並ばず、彼の少し後ろを歩く私。
でも今思えば、この距離が今以上に開くことはない。
(セベクの身長って…188センチって前言ってたよね。
私は160ないくらいだから…30センチくらい差が…)
そんなことを考えているとふと気付いた。
…ああ、歩幅合わしてくれてるんだ。
だからずっと同じ距離感で歩いているんだ。
そんな彼の気遣いに少しまた心が暖かくなる。