第6章 春の虹
「……俺自身のモヤモヤはなくなってます。今更サトとどうこうしようなんて思ってない。でも、ふと思ったんです。サトはどうなんだろうって。……俺があいつにやったことは消えないでしょう」
「…………」
「だから、どの面下げて会えるんだ、って思っちゃって」
すみません、と、小さく二宮くんは言ってうつむいた。
「………いや」
そのすみませんは、どこにかかるものなのだろう、と、考える。
会いたくないから、逃げ回ってることにか。
智を無理矢理抱いてしまったことに対しての、親代わりの俺にか。
いや、しかしこの時の俺は、二宮くんが男同士の恋愛がいけることに正直驚いていたし、二宮くんが俺と昌宏さんとの関係性を普通に受け入れていたのは自分が抵抗なかった人だったからなのか、と、妙に納得していた。
そして、全然関係ないが、二宮くんは男も抱けるんだ、ということにも……衝撃をうけてた。
だが、黙ってしまった俺が、怒っていると勘違いしたのか、二宮くんはゴソゴソと帰り支度を始めた。
「あの…すみませんでした。俺、帰ります」
「待って」
立ち上がろうとする腕を、慌てて掴んだ。
二宮くんは泣きそうな顔で俺を見下ろす。
俺は、つとめて冷静に二宮くんの茶色い目をみた。
「………二宮は、まだ智のことが好きなの?」
じっと見つめると、二宮くんは瞳を揺らしてから、いいえ、とかぶりを振った。
「…………いえ。それはもう過去のことです」