第6章 春の虹
Kazu
「うまい……」
「ふふ……」
熱々の味噌汁を口にした俺の表情をみて、母ちゃんは顔をほころばせた。
「どうせこれまで、ろくなもの食べてなかったんでしょう。たんと食べなさい」
目の前のテーブルには、俺の好物の唐揚げやら、マカロニサラダやら、麻婆豆腐やら、一体誰が食うんだ、と突っ込みたくなるくらいの量がところ狭しと並べられている。
それは、一人息子が帰ってきてとても嬉しい、という母ちゃんの心をそのまま表しているかのようだった。
俺は、うんと頷いて、ピカピカのご飯と共に食べ始めた。
「三年ぶりねぇ……」
「そうだな」
感慨深げに呟く母ちゃんに、優しい気持ちで返事をする。
俺は、マカロニサラダの少し太いキュウリを、ポリポリ食べた。
……三年ぶりにこの地に帰ってきた。
新卒で就職した某企業は、全国展開してるから、転勤も多いと聞いていたが……新人研修後、言い渡された赴任先は、いきなり地方であった。
関東近郊なら、実家から通えたのに、と戸惑いながら
初めての一人暮らしと、初めての仕事に、必死に頑張った数年。
そこでそれなりの営業成績をあげた俺は、今年東京本社に転勤となった。
独り身の俺は、そのまま再び実家に転がり込んだ、というわけだ。