第4章 夕虹
この男は、俺を好きだと言ってくれた。
いろんな男と寝た俺でも、いいと言ってくれた。
不安で不安で、この先も何度も、ほんとに?と確かめてしまうと思う、と言ったら、何度でも、本当だよって言ってくれるって。
……好きだよって言ってくれるって。
「……いい男だなって見惚れてる?」
「っ……そんなんじゃない」
知らず、じっと見つめてしまっていたようで、松本が照れたように茶化してきた。
俺は、あわててそっぽをむいて、また空に目を向ける。
「……あ……」
俺の呟きに、松本もそちらに目を向けた。
松本は、ほぉ……とため息をつきながら、すげ、と言った。
「……虹」
「すごい……綺麗」
真っ青な空に架かる七色の橋。
途中で切れずに、アーチを描いた完璧な虹を俺は初めて見た。
「……なんか、いいことありそうだな」
松本が呟く。
俺は、頷きながらふと、昔父ちゃんから聞いた雑学を思い出していた。
《……智、夕方みる虹ってのは、夕虹っていってな。
夕虹のでた次の日は、必ず晴れるんだぞ》
「……必ず……晴れる」
「……ん?」
「……晴れるよ。明日は」
「そっかー」
松本がにっこり笑って、ベンチにおかれた俺の手に、そっと自分の手を重ねてきた。
その温もりに、何故かじわりと目頭が熱くなった。
松本にばれないように、俺はうつむいて、すんと小さく鼻をすすった。
松本は黙って、俺の手を握る手に力をこめた。
明日は、きっと今日よりも、いい日になる。
俺をみつめてくれる人と……共に前をみよう。
……明日は晴れる。
晴れるよ、きっと。
fin.